近年、ECサイトの成長において、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客との関係性を深め、リピーターを増やすことが重要な課題となっています。
そのための有効なソリューションとして注目を集めているのが、CRM(Customer Relationship Management)システムです。
そこで本記事では、CRMシステムの主な機能、CRM導入のメリットや導入後の施策などを解説し、さらに企業の活用事例を紹介します。
CRM(顧客管理)システムとは?
CRM(Customer Relationship Management)システムとは、顧客情報を一元的に管理・分析し、企業と顧客との関係を強化・維持するためのツールです。これにより、顧客一人ひとりに適切なアプローチが可能となり、顧客満足度の向上や売上拡大につなげられます。
現在、AIによる予測分析や自動レコメンド機能も実装され、より高度な顧客対応が実現できるようになっています。
ECサイトにおけるCRMの重要性は、以下の3つの観点から年々高まっています。
- 既存顧客のLTV(顧客生涯価値)最大化
- データに基づいた精緻なターゲティング
- 一貫した顧客体験の管理・最適化
このように、CRMは単なる顧客データの管理ツールではなく、ECサイトの持続的な成長を支えるシステムとも言えます。
MAとの違い
ECサイトの運営において、CRMとMA(Marketing Automation)は、どちらも重要なツールとして注目されています。しかし、この2つのシステムは、その目的や機能において大きく異なります。
CRMの主な目的は、既存顧客との関係性を強化し、長期的な取引関係を構築することにあります。
具体的には、顧客の購買履歴や問い合わせ履歴、サイト内での行動データなどを一元管理し、それらの情報を基に最適なアフターフォローやサポートを提供します。これにより、顧客満足度の向上やリピート購入の促進、さらにはロイヤルカスタマーの育成を実現します。
一方、MAは見込み顧客(リード)の発掘から育成までを担うツールです。ウェブサイトでの行動履歴やメールの開封率、資料請求といったアクションを追跡・分析し、購入の可能性が高い見込み顧客を特定します。その上で、自動化されたメール配信やコンテンツ配信によって、見込み顧客を段階的に育成していきます。
また、最近では両者を連携させる取り組みも増えています。MAで獲得・育成した見込み顧客が実際に購入した後は、そのデータをCRMに引き継ぎ、継続的な関係構築を図るという流れです。これにより、顧客のライフサイクル全体を通じた一貫した対応が可能になるでしょう。
CRMシステムの主な機能
現代のECサイト運営において、CRMシステムは顧客との関係性を強化し、ビジネスの成長を支える重要なツールとなっています。
CRMの主な機能は、以下になります。
機能 | 内容 |
顧客情報の一元管理 |
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データベース管理機能 |
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メッセージ配信機能 |
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問い合わせ管理機能 |
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データ分析機能 |
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外部システムとの連携機能 |
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これらの機能は、単独で活用するのではなく、相互に連携させることで最大の効果を発揮します。
EC事業におけるCRM導入のメリット5つ
EC事業において、CRMシステムの導入は単なる顧客管理ツールの導入以上の価値をもたらします。特に、デジタルシフトが加速する現代のビジネス環境において、その重要性は一層高まっています。
CRM導入による主なメリットは、以下の5つです。
- リピート購入率のアップ
- コスト削減と業務効率化
- 顧客満足度の向上
- ビジネスプロセス全体の改善
- 新規顧客の獲得
このように、CRMの導入は、EC事業における顧客体験の向上から業務効率化まで、幅広い領域でビジネスの成長を支援する重要なツールとなっています。
これらのメリットについて、ここから詳しく解説します。
リピート購入率のアップ
ECサイトの収益性を高める上で、新規顧客の獲得と同様に重要なのが、既存顧客のリピート購入率の向上です。CRMシステムを活用することで、顧客一人ひとりの購買パターンや行動特性を詳細に分析し、効果的なリピート促進施策を展開することが可能になります。
具体的なアプローチとして、まず購買履歴データの活用が挙げられます。例えば、化粧品のECサイトであれば、顧客の使用サイクルを分析し、製品が使い切られる時期に合わせて次回購入を促すメールを配信することができます。また、過去に購入した商品との相性が良い関連商品をレコメンドすることで、クロスセルの機会を創出することも可能です。
さらに、CRMシステムの自動化機能を活用したステップメール配信も効果的です。初回購入後の使用感調査、リピート購入特典の案内、季節に応じたおすすめ商品の提案など、顧客との継続的なコミュニケーションを自動化することで、効率的にリピート購入を促進できます。
コスト削減と業務効率化
EC事業における収益性向上の鍵は、効果的なコスト管理と業務効率化にあります。CRMシステムの導入は、この両面で大きな成果をもたらす可能性を秘めています。
まず、広告費の最適化について考えてみましょう。新規顧客獲得のための広告費は年々高騰しており、特にリスティング広告やSNS広告では、競争激化により入札単価が上昇傾向にあります。
CRMを活用することで、既存顧客へのアプローチを強化し、リピート購入を促進できます。これにより、新規顧客獲得への依存度を下げ、広告費を効率的に配分することが可能です。
業務の自動化も重要なポイントです。例えば、顧客セグメントに応じたメール配信、購入後のフォローアップ、定期的なキャンペーン告知など、これまで手作業で行っていた作業を自動化できます。CRMシステムの中には、AIを活用した配信最適化機能が搭載されているものもあり、配信タイミングや内容の最適化も自動で行うことが可能です。
データ管理の効率化も見逃せないメリットです。従来、顧客情報や購買データ、問い合わせ履歴などが複数のシステムに分散していた状態から、CRMによる一元管理へと移行することで、データの検索や更新にかかる時間を大幅に削減できます。また、データの重複や入力ミスも防ぐことができ、より正確な顧客対応が可能となるでしょう。
顧客満足度の向上
ECサイトにおける顧客満足度の向上は、持続的な事業成長の要となります。CRMシステムの導入により、顧客対応の質が劇的に改善され、結果として顧客満足度の大幅な向上につながるでしょう。
CRMシステムにより、顧客の購買履歴、問い合わせ履歴、商品閲覧履歴などの情報に即座にアクセスできるようになり、的確な対応が可能となります。
例えば、商品に関する問い合わせがあった場合、過去の購入履歴や閲覧履歴を参照しながら、顧客の好みや使用環境に合わせた提案ができます。これにより、顧客一人ひとりに寄り添った丁寧な対応が可能です。
また、ロイヤルティプログラムの効果的な運用も顧客満足度を上げるために重要です。CRMシステムを活用することで、顧客のステータスに応じた特典の付与や、購買行動に基づいたポイント還元率の調整など、きめ細かなロイヤルティ施策を展開できます。
例えば、高額購入者には特別なVIP特典を提供したり、誕生月には特別クーポンを発行したりするなど、顧客一人ひとりに合わせた特典を提供することが可能です。
ビジネスプロセス全体の改善
ECサイトの運営において、CRMシステムの導入は単なる顧客管理の枠を超え、ビジネスプロセス全体を最適化する重要な役割を果たします。特に、複数の部門や業務プロセスが関わるEC事業では、CRMを中心としたシステム統合が業務効率の大幅な向上につながります。
在庫管理システムとCRMの連携は、特に重要なポイントです。顧客の購買履歴や行動データと在庫状況をリアルタイムで連動させることで、より効率的な在庫計画が可能になります。例えば、特定商品の需要予測に基づいた適正在庫の維持や、季節商品の仕入れタイミングの最適化など、データドリブンな在庫管理ができます。
また、注文管理システムとの連携により、受注から出荷、アフターフォローまでの一連のプロセスを一元管理できるようになります。これにより、従来は別々のシステムで管理していた情報が統合され、作業の重複やミスが大幅に削減されます。さらに、顧客からの問い合わせに対しても、注文状況や配送状況をリアルタイムで確認しながら、迅速かつ正確な対応が可能となります。
部門間のコミュニケーションも、CRMの導入により劇的に改善されます。マーケティング部門、営業部門、カスタマーサポート部門など、異なる部門が同じデータベースにアクセスし、リアルタイムで情報を共有できることで、より一貫性のある顧客対応が可能になります。
例えば、マーケティング部門が実施したキャンペーンの効果を営業部門がすぐに確認できたり、カスタマーサポート部門での対応履歴をマーケティング部門が分析に活用したりすることが可能です。
新規顧客の獲得
CRMを活用した新規顧客獲得の特徴は、既存顧客データの戦略的活用です。例えば、優良顧客の特徴や購買パターンを分析することで、類似した属性を持つ新規顧客層へのアプローチが可能になります。
また、CRMを通じて顧客満足度を向上させることで、自然な口コミや紹介が生まれやすくなります。特にSNSでの情報拡散力は強く、満足度の高い顧客からの自発的な投稿は、新規顧客の獲得において非常に効果的です。これは、従来の広告よりも信頼性が高く、かつコストパフォーマンスに優れた手法となっています。
さらに、CRMシステムを活用することで、既存顧客の紹介プログラムも効率的に運用できます。例えば、購入履歴や顧客満足度などのデータを基に、紹介してくれる可能性の高い顧客を特定し、適切なタイミングで紹介キャンペーンを展開することが可能です。
加えて、CRMで蓄積されたデータは、新規顧客向けのマーケティング施策の最適化にも活用できます。既存顧客の購買行動パターンや商品選択の基準を分析することで、新規顧客に対してより効果的なアプローチが可能になります。これにより、広告費用対効果を高め、効率的に新規顧客を獲得できるでしょう。
ECサイトに効果的なCRMでやるべき施策6選
ECサイトにおけるCRM施策は、顧客のライフサイクルに応じて適切に展開することで、最大の効果を発揮します。
ここでは、CRM導入でやるべき施策として、以下の6つを紹介します。
- 優良顧客向けロイヤリティ施策
- 初回購入者のリピート促進
- ターゲット別マーケティング
- 途中解約の防止施策
- パーソナライズドマーケティング
- リアルイベントとオンラインイベントへの活用
これらの施策を効果的に実施するためには、PDCAサイクルを回しながら継続的な改善を図ることが重要です。定期的に効果測定を行い、施策の見直しと最適化を行うことで、より効果的なCRM戦略を構築することができるでしょう。
優良顧客向けロイヤリティ施策
ECサイトの収益性向上において、優良顧客の維持と育成は極めて重要なポイントです。パレートの法則として知られる「売上の80%は上位20%の顧客が生み出す」という原則は、ECサイトにおいても当てはまります。そのため、これらの優良顧客に対する効果的なロイヤリティ施策の展開は、EC事業の成長に欠かせません。
優良顧客向けのロイヤリティプログラムでは、まずメンバーシップステージの設定が重要です。年間購入額に応じて、プラチナ、ゴールド、シルバーなどのステージを設定し、各ステージに応じた特典を提供することで、上位ステージへの昇格意欲を促進します。
例えば、特典内容は、通常の1.5倍から3倍のポイント還元率、送料無料サービス、限定商品の先行販売権など、一般会員との明確な差別化を図ることが効果的です。
また、オンライン・オフラインを組み合わせたハイブリッドなイベント展開も重要な施策となります。新商品発表会への優先招待や、オンライン限定セミナーの開催、メーカーとのコラボレーションイベント、VIP会員限定のショールーム見学会など、特別感のある体験を提供することで、顧客エンゲージメントを高めることができるでしょう。
CRMシステムを活用したパーソナライズド施策も効果的です。購買履歴に基づいた商品レコメンドや、顧客の趣味・嗜好に合わせた情報提供、利用頻度に応じた特別クーポンの発行など、一人ひとりの顧客に合わせたアプローチが可能となります。特に、バースデー特典やメンバー専用カスタマーサポートなど、顧客に寄り添ったサービスの提供は、ロイヤルティ向上に大きく貢献します。
初回購入者のリピート促進
ECサイトの持続的な成長において、初回購入者を継続的な顧客へと育成することは極めて重要です。特に、2回目の購入(F2転換)を実現できた顧客は、その後のリピート率が大幅に向上することが知られています。そのため、初回購入者に対する戦略的なアプローチが、ビジネスの成否を左右する重要な要素となります。
初回購入者へのアプローチは、商品の到着をトリガーとして開始することが効果的です。商品到着後、使用開始時期を考慮したタイミングで、商品の使用方法や活用のヒントなどの有益な情報を提供します。
この際、次回購入時に使えるクーポンやポイントを付与することで、2回目の購入への動機付けを強化することができます。特に、初回購入商品との相性が良い関連商品や、セット使用で効果が高まる商品などを推奨することで、クロスセルの機会も創出できます。
また、継続的なコミュニケーションチャネルの確保も重要です。商品到着後の満足度調査メールや、SNSフォロー、メルマガ登録の案内など、顧客との接点を複数設けることで、ブランドとの関係性を強化することができます。特に、LINEやInstagramなどのSNSフォローを促進することで、よりリアルタイムで密接なコミュニケーションが可能となります。
ターゲット別マーケティング
CRMシステムを活用することで、より精緻な顧客セグメンテーションと、それに基づいた効果的なマーケティング施策の展開が可能です。
まず、顧客セグメンテーションの基本となるのが、購買履歴や行動データの分析です。購入頻度、購入金額、最終購入日などの指標を組み合わせた分析を行うことで、顧客を優良顧客、定期購入者、休眠顧客などにセグメント化することができます。
さらに、サイト内での閲覧履歴や商品カテゴリーごとの購入傾向なども加味することで、より詳細な顧客像を把握することが可能です。
特に注目すべきは、休眠顧客の再活性化施策です。長期間購入のない顧客に対しては、過去の購入履歴を分析し、その顧客が興味を持ちそうな商品や、以前購入した商品の関連商品を提案することが効果的です。また、期間限定のスペシャルクーポンや、パーソナライズされたお得な情報を提供することで、再度の購入を促すことができます。
クロスセル・アップセルの戦略も重要です。特定の商品を購入した顧客に対して、その商品との相性が良い関連商品や、より上位グレードの商品を提案することで、顧客単価の向上を図ることができます。
途中解約の防止施策
解約防止の第一歩は、解約の兆候を早期に察知することです。CRMシステムを活用することで、利用頻度の低下や問い合わせ内容の変化など、解約につながる可能性のある行動パターンを把握することができます。
例えば、定期購入商品の配送スキップが増加した顧客や、サイトへのアクセス頻度が減少した顧客に対して、事前にフォローアップを行うことで、解約を未然に防ぐことが可能です。
解約ページのデザインと導線設計も重要なポイントです。解約を検討している顧客に対して、特別な割引オファーや期間限定の特典を提示することで、継続を促すことができます。ただし、この施策は安易な値引き合戦を招く可能性があるため、顧客の利用状況や会員ランクに応じて、適切なオファーを設計することが重要です。
また、解約理由の収集と分析も不可欠です。解約時のアンケートやヒアリングを通じて得られたフィードバックは、サービス改善の貴重な情報源となります。例えば、価格が高いという理由であれば料金プランの見直しを、使い方がわからないという理由であればサポート体制の強化を検討するなど、具体的な改善施策につなげることができます。
パーソナライズドマーケティング
現代のECサイト運営において、パーソナライズドマーケティングは顧客体験を向上させる重要な戦略となっています。CRMシステムに蓄積された詳細な顧客データとAI技術を組み合わせることで、一人ひとりの顧客に最適化されたコミュニケーションが可能となります。
パーソナライズドマーケティングの核となるのは、精緻な顧客データの分析です。購買履歴、サイト内での行動パターン、商品閲覧履歴、さらにはメール開封率やクリック率など、あらゆる顧客接点から得られるデータを統合的に分析します。これにより、各顧客の興味関心や購買傾向を詳細に把握し、最適なタイミングで最適な商品を提案することが可能となります。
また、AI技術を活用した予測分析の活用も重要です。機械学習アルゴリズムにより、顧客の次回購入タイミングや、興味を持ちそうな商品を高い精度で予測することができます。例えば、化粧品の定期購入者であれば、使用量から次回購入時期を予測し、適切なタイミングでリマインドメールを送信することで、継続購入を促進することができます。
リアルイベントとオンラインイベントへの活用
ECサイトにおけるCRMの活用は、デジタル上のコミュニケーションにとどまらず、リアルイベントやオンラインイベントを通じた顧客との深い関係構築にも広がっています。CRMで蓄積された顧客データを活用することで、より効果的なイベント企画と運営が可能となり、顧客エンゲージメントの向上につながります。
リアルイベントでは、顧客との直接的な交流が可能です。例えば、CRMデータから抽出した優良顧客向けの特別イベントを開催し、新商品の先行体験会や商品開発者との対話セッションを実施することで、ブランドへの理解と愛着を深めることができます。また、デジタルスタンプラリーなどのゲーム要素を取り入れることで、店舗への来店促進と購買意欲の向上も期待できます。
一方、オンラインイベントは地理的制約を受けないという大きな利点があります。ライブ配信を活用した商品説明会や、オンラインワークショップなど、場所を問わず多くの顧客が参加できるイベントを展開することで、新規顧客の獲得にもつながります。特に、商品の使い方講座やメンテナンス方法の解説など、実用的な情報を提供するイベントは、顧客満足度の向上に効果的です。
さらに、ハイブリッド型のイベント開催も注目されています。リアルイベントの様子をライブ配信することで、会場に来られない顧客も参加できるようにしたり、オンラインで事前予約した顧客が実店舗でスムーズに商品を受け取れるような仕組みを構築したりすることで、オンラインとオフラインの相乗効果を生み出すことができます。
CRMを活用したECサイトの事例
実際のEC事業者によるCRM活用事例を分析することで、効果的な導入方法や運用のポイントを把握することができます。CRM導入を検討している場合、これらの事例はとても参考になるでしょう。
ここでは、以下5社の活用事例を紹介します。
- やずや
- BEAMS
- 株式会社ファンケル
- 株式会社ダブルエー
- SABON
これらの事例を参考にすることで、自社のCRM導入や運用に活かせる具体的なヒントを得ることができます。ただし、各企業の規模や業態、顧客特性に応じて最適な方法は異なるため、自社に合った形でカスタマイズしていく必要があります。
やずや
健康食品・サプリメントの通信販売で知られるやずやは、「価値あるものを創造し、社会に貢献・奉仕する」という経営理念のもと、独自のCRM戦略を展開しています。同社の特徴的な取り組みが、顧客を11種類のタイプに分類する「顧客ポートフォリオ理論」です。
この理論の特筆すべき点は、離脱顧客への細やかなアプローチです。顧客を「新規離脱」「未開発離脱」「有料離脱」など、離脱状態に応じて詳細に分類し、それぞれの状況に合わせたコミュニケーション戦略を展開しています。この施策により、一度離脱した顧客の再獲得にも成功を収めています。
また、同社はカスタマーサポートの品質向上にも注力しています。CRMシステムを活用することで、顧客との対話やコミュニケーションを重視し、オペレータが顧客情報に即座にアクセスできる環境を整備しました。これにより、顧客一人ひとりに寄り添った丁寧な対応が可能となっています。
参考:株式会社グリーゼ 代表取締役 江島民子「やずやの窮地を救い、単品リピート通販でなくても使える 顧客ポートフォリオ設計法」
BEAMS
ファッションブランドのBEAMSは、オムニチャネル戦略とロイヤルティプログラムを効果的に組み合わせたCRM戦略を展開しています。2024年にリニューアルされた「BEAMS CLUB」プログラムは、顧客エンゲージメントの向上と、オンライン・オフライン双方での購買促進を目指した取り組みとなっています。
同社のCRM戦略の特徴は、複数のタッチポイントを通じた包括的な顧客接点の創出です。アプリ初回ログイン(1000マイル)、LINE連携(1000マイル)、メールマガジン登録(1000マイル)など、デジタルチャネルでの接点構築に重点を置いています。また、会員登録時の本登録(500マイル)にもマイルを付与することで、より詳細な顧客情報の収集を促進しています。
購買履歴に基づくマイル制度も特徴的です。購入金額1円につき1マイルが付与され、累計マイル数に応じて会員ステージが決定されます。このシステムにより、顧客の購買意欲を継続的に刺激しながら、長期的な関係構築を図っています。
株式会社ファンケル
無添加化粧品・健康食品業界で知られるファンケルは、デジタル通販と直営店舗を主軸とした事業展開を行っています。
同社は近年、従来の通販CRMの常識を覆す新たな戦略を展開しています。従来のCRMでは、「新規」「ライト」「ミドル」「ヘビー」という購入回数による分類と、「アクティブ」「非アクティブ」という購入後経過日数による分類を基本としていました。特に購入経験の浅い顧客層への重点的なアプローチが一般的でした。
しかし、情報過多の現代では、購入経験が豊富な顧客でも離反しやすい傾向が強まっています。この課題に対応するため、ファンケルは会員サービスを大幅に刷新し、マーケティングオートメーションを導入しました。特にミドルユーザーやヘビーユーザーに対する継続購入促進策を強化しています。
特筆すべきは、非アクティブ層へのアプローチに対する考え方です。同社は、新規顧客の開拓よりも、過去に取引実績のある非アクティブ顧客の再活性化に注力しています。これは、企業や商品をすでに理解している顧客の方が、高いLTV(顧客生涯価値)を期待できるという考えに基づいています。
参考:MarkeZine「これまでの通販CRMのセオリーが崩れてきた ファンケルが考えるメールによるエンゲージメント強化とは?」
株式会社ダブルエー
レディースシューズブランド「ORiental TRaffic」を展開する株式会社ダブルエーは、CRMデータを活用したデジタル広告施策により、顕著な成果を上げています。同社のECサイトは、従来メールマーケティングを主軸としており、全体売上の約15%をメール経由が占めていました。
同社の特徴的な点は、メールマーケティングの高い効果です。平均開封率30%を超える高いエンゲージメントを実現していましたが、さらなる売上拡大のために新たなチャネル開拓が課題となっていました。
この課題に対し、同社はCRMデータを活用したFacebookコレクション広告を展開。特に夏季セールにおいて、EC会員と店舗会員それぞれに対して異なるアプローチを実施しました。
その結果、1ヶ月の広告出稿で合計246件の購入(EC会員213件、店舗会員33件)を獲得し、ROAS(広告費用対効果)750%超という驚異的な成果を達成。これにより、夏季セールの売上は前年比160%を記録しました。
参考:シナジーマーケティング株式会社「ROAS 750%超えを達成!ダブルエーのEC売上UPに寄与したCRM志向のデジタル広告」
SABON
イスラエル発のボディケアブランドSABONは、LINE公式アカウントを中心としたCRM戦略により、EC売上の約3割をLINE経由で獲得するという顕著な成果を上げています。同社のデジタルマーケティング戦略は、オンラインとオフラインの顧客接点を効果的に統合した事例として注目されています。
同社のCRM戦略の特徴は、ECサイト会員、店舗会員、LINE友だちという3つの顧客基盤を効果的に連携させている点です。特に、LINE公式アカウントを活用したコミュニケーション戦略は、顧客との関係性強化に大きく役立っています。
また、同社は明確なKPI設定に基づいた戦略展開を行っています。具体的には、会員数、購入率、リピート率、顧客単価という4つの指標を重視し、それぞれの改善に向けた施策を展開しています。これにより、データに基づいた効果的なマーケティング活動を実現しています。
参考:日経クロストレンド「EC売り上げの3割をLINEで稼ぐSABON 3つの顧客基盤と4つのKPIとは」
まとめ CRM導入でECサイト運営を次のステージへ
ECサイト運営において、CRMシステムの導入は単なる顧客データの管理にとどまらず、ビジネス全体を変革する大きな可能性を秘めています。特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する現代において、CRMを活用した統合的な顧客管理は、競争優位性を確保する重要な要素となっています。
最も注目すべき効果は、実店舗とECサイトの顧客データ統合による相乗効果です。従来、別々に管理されていた店舗での購買データとECサイトでの行動データを統合することで、顧客一人ひとりの全体像が把握できるようになります。これにより、オンラインとオフラインの境界を越えた一貫性のある顧客体験の提供が可能となり、クロスチャネルでの購買率向上につながります。
また、リアルタイムデータ分析による即時的なマーケティング施策の展開も重要な進化点です。顧客の行動データをリアルタイムで分析し、その瞬間に最適なオファーや商品提案を行うことで、従来よりも高い効果が期待できます。特に、AIを活用した予測分析により、顧客の次の行動を予測し、先回りした提案が可能となっています。
さらに、カスタマーサポートの自動化による業務効率の向上も見逃せません。CRMシステムと連携したチャットボットの導入により、24時間365日の顧客対応が可能となり、問い合わせ対応時間の短縮と顧客満足度の向上を同時に実現できます。特に、よくある質問や注文状況の確認など、定型的な問い合わせの自動化により、サポートスタッフはより複雑な案件に注力できるようになるでしょう。