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ECサイトの規模が大きくなってくると、独自機能の追加、処理速度の安定化、他のシステムとの連携など、様々な対策が必要となってきます。

しかし、このような状況を見越してECサイトを構築する場合、フルスクラッチか、パッケージ型かで迷うことも多いでしょう。

そこで本記事では、フルスクラッチのメリットやデメリット、フルスクラッチに向いている企業、パッケージ型が推奨されるケースなどを中心に解説します。

フルスクラッチ開発とは?

フルスクラッチ開発とは?

フルスクラッチ開発とは、既存のソフトウェアやテンプレートを使わず、ゼロからオリジナルのECサイトを構築する手法です。

必要な機能やデザインを一から作り上げるため、自由度が非常に高く、自社独自の要件に沿ったサイトを実現できる点が最大の特徴といえます。

その反面、高度な開発スキルが要求され、開発規模が大きくなるため「コストと時間も膨大」になりがちです。実際、フルスクラッチ開発には数千万円~数億円規模の予算が必要となるケースも少なくありません。

インフラやサーバーの準備・運用も含めてゼロから対応する必要があり、これだけの投資ができるのは主に大企業など潤沢な予算がある企業に限られます。

フルスクラッチの特徴

フルスクラッチの最大の特徴は「ECサイトを完全にオリジナル設計できる」点です。トップページのレイアウトから商品ページの表示方法、購入フローに至るまですべてを思い通りにデザイン・開発できます。

自社のビジネスモデルやブランドイメージ、ターゲットユーザーに合わせて細部までカスタマイズできるため、他社とは異なる独自のユーザー体験を提供できるECサイトを作り上げることが可能です。

一方で、既存のリソースを流用しない分、開発期間が長期化しやすく、費用も高額になる点には注意が必要です。独自機能や複雑な要件を盛り込むほど開発コスト・期間は増大し、途中で要件変更が発生すれば追加コストやスケジュール遅延のリスクも高まります。

また、フロントエンドからバックエンド、サーバーやセキュリティまで幅広い知識を持つ「専門的な技術者が必要」であり、人材確保やチーム体制の構築自体にも大きな労力を伴います。

大規模ECサイトで採用される理由

フルスクラッチは特に大企業の大規模ECサイトで採用されてきた経緯があります。その理由の一つは、標準的なECパッケージでは対応できない独自要件が多いからです。

たとえば、予約システムなど通常のECサイトを大きく逸脱した機能要求がある場合、既存のECパッケージでは対応が難しく、結局フルスクラッチ並みの費用・期間がかかってしまいます。そのため要件が複雑で既存製品では収まりきらない場合、はじめからフルスクラッチを選択せざるを得ないケースがあります。

また、多くの大企業は自社に開発部門を持ち、システムを内製化したいニーズが高いことも理由です。

自社で技術者を抱える企業ほど「システムをブラックボックス化せず自社で保守管理したい」という考えが強く、その実現にはフルスクラッチで自前開発する以外に方法がありません。

実際、ユニクロやZOZOTOWNなど国内ECの代表格もフルスクラッチで独自システムを構築しており、自社内にノウハウを蓄積しつつ在庫管理連動や複数ブランド一括販売など独自モデルを実現しています。

フルスクラッチ開発は時代遅れか

近年では、フルスクラッチ開発を選択する企業は減少傾向にあります。かつては大企業を中心に主流の手法でしたが、コストとスピードの面でのデメリットから「時代遅れになりつつある」とも言われます。

要因としては、以下の背景があります。

  • オープンソースやパッケージ型のECプラットフォームが充実
  • ASP/SaaS型サービスの機能拡張性が向上

現在では、パッケージやクラウドECを利用してもフルスクラッチに匹敵するカスタマイズが可能になりつつあり、大規模なECサイトでない限りフルスクラッチのメリットは小さくなっています。

事実、近年はフルスクラッチでECサイトを構築する事例はかなり減り、多くの企業がパッケージのカスタマイズやASP利用へ移行しています。

以上のことから「フルスクラッチ=絶対に必要」という時代は過ぎ去り、現在は特殊なケースを除けば他の構築手法で十分対応可能であるとも言えるでしょう。

フルスクラッチでECサイトを構築する費用・期間

フルスクラッチでECサイトを構築する費用・期間

ECサイトのフルスクラッチ開発には多大な費用と期間が必要となるため、フルスクラッチで構築する際には、あらかじめ費用や期間を把握しておくことが重要です。

ここでは、以下について詳しく解説します。

  • 開発に必要な費用の目安
  • ECサイト完成までにかかる開発期間
  • 維持管理にかかる運用コスト

これら開発費用や期間などを理解した上で、フルスクラッチ開発を進めるか否かを検討するとよいでしょう。

開発に必要な費用の目安

フルスクラッチでECサイトを開発する場合、初期費用は非常に高額となります。一般的には開発規模によりますが、費用は数千万円以上が相場で、要件次第では数億円規模に達することもあります。

他の手法と比べても桁違いで、たとえばパッケージ型やASP型であれば月額数万円程度から利用可能なサービスもあるのに対し、フルスクラッチでは初期開発費用だけでなく運用開始後も継続的にコストが発生します。

また、フルスクラッチが「年商50億円超のEC向け」と言われるのも、この巨額の開発費用と運用コストに耐えられる規模の企業に限られるためです。

要するに、潤沢な予算を投下できる企業でなければフルスクラッチ導入は難しいのが実情です。

ECサイト完成までにかかる開発期間

開発期間も長期に及ぶ点に注意が必要です。ゼロから開発するフルスクラッチでは、要件定義・設計から実装、テストまで全て一から行うため、小規模サイトでも完成まで最低「半年~1年」は見込んでおくべきでしょう。大規模サイトになれば、それ以上の期間が必要になる場合もあります。

実際、フルスクラッチ開発には半年から数年単位の期間を要するのに対し、既存パッケージを使えば「3ヶ月~半年」程度で完成するのが一般的だとされています。

市場環境の変化が激しいEC業界において、リリースまでに時間をかけすぎることはビジネスチャンスの損失につながりかねません。そのため「少しでも早くサービスを開始したい」という場合には、フルスクラッチは適さないでしょう。

開発に長期間を要するフルスクラッチを進める場合は、綿密なスケジュール管理を行い、プロジェクトが迷走しないようマイルストーンを定めて進捗を管理することが極めて重要です。

維持管理にかかる運用コスト

サイト構築後の「維持管理」にも大きなコストがかかります。フルスクラッチでは運用段階に入ってからも「毎月数十万円規模のランニングコスト」が発生するのが一般的です。

サーバー費用やシステム保守、人件費など、サイトを安定稼働させ改善を続けるためのコストは無視できません。新たな機能追加や既存機能の改善を行う場合も、その都度開発コストが発生します。

また、ASPやクラウドECであれば提供事業者がOSアップデートやセキュリティ対策を代行してくれますが、フルスクラッチの場合はこれらも全て自社で対応しなければなりません。

脆弱性が見つかれば迅速に自社で修正対応する必要があり、日常的な細かい更新作業も含めて運用負担は大きくなります。場合によっては外部の運用代行会社に保守を委託する選択もありますが、その際はさらに追加の運用費用が発生するでしょう。

このように、フルスクラッチで構築したサイトを長期にわたり安定運用するには、相応の予算と人的リソースを継続投入していく覚悟が求められます。

他のECサイト構築手法との比較(パッケージ・オープンソース・ASP/SaaS)

他のECサイト構築手法との比較(パッケージ・オープンソース・ASP/SaaS)

フルスクラッチでのECサイト構築を検討する際には、費用や期間といったリソース面だけでなく、他の構築方法との違いも知っておくとよいでしょう。

  • パッケージ型ECサイト構築との違い
  • オープンソース型ECサイト構築との違い
  • ASP/SaaS型ECサイト構築との違い

ここからは、フルスクラッチとパッケージ型、オープンソース型、ASP/SaaS型との違いを解説します。

パッケージ型ECサイト構築との違い

パッケージ型とは、ECサイト運営に必要な機能がひととおり組み込まれた既製のソフトウェアを導入し、自社用にカスタマイズして使う方法です。パッケージ型の製品には以下があります。

  • 通販マーケッターEight!
  • コマース21
  • ecbeing など

パッケージを利用する場合、ベースとなるシステムが既に存在するため、一から作るフルスクラッチに比べて「短期間・低コストで構築しやすい」という利点があります。

開発・運用コストを抑えやすく、社内に高度な技術者がいなくてもベンダーの支援によりサイト構築が可能なので、潤沢なリソースがない企業でも導入しやすい手法です。

近年ではパッケージの機能も充実が進み、フルスクラッチに劣らないほど多機能になっています。カスタマイズ性も高く、大規模ECサイトでも問題なく構築・運用できる水準に達しているため、現在は多くの企業が大規模ECの構築手法としてパッケージを選ぶようになっています。

一方で、パッケージはあくまで既存システムがベースになるため、フルスクラッチほどの完全な自由度はありません。他社と共通の基盤を使う以上、独自の要件を実現するにもパッケージの想定範囲内で工夫する必要があります。

総じて、パッケージ型は「ある程度標準的なEC機能+α」のサイト構築に向いており、コストパフォーマンスに優れる方法です。フルスクラッチは「自由度の高さ」という点で勝りますが、その分コスト・リソース面のハードルが高いため、パッケージで十分対応できるのであればパッケージを選ぶ方が合理的と言えるでしょう。

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オープンソース型ECサイト構築との違い

オープンソース型は、無償公開されたECサイト構築用のソフトウェア(例:国内ではEC-CUBEなど)を利用して、自社向けにカスタマイズする手法です。

基本的な仕組みはパッケージ型に似ていますが、ソフトウェア自体は無料で入手できるためライセンス費用が不要であり、またソースコードが公開されているため「自社で自由に改変可能」な点が特徴です。

フルスクラッチとの違いは、ベースとなるECの基本機能が最初から出来上がっているため、一から全機能を実装する必要がないことです。その分、フルスクラッチよりも短期間・低コストでECサイトを構築できる傾向があります。

特に大規模ECの構築においても、オープンソースを活用すればゼロベース開発に比べて負担を大幅に軽減できるとされています。

ただし、オープンソース型にも相応の開発リソースは必要です。プログラム自体は無料でも、要件に合わせたカスタマイズやデザイン開発にはエンジニアの工数がかかります。

また、コミュニティベースで開発・提供されるオープンソースの場合、公式のサポートは限定的であり、保守やセキュリティ対応は自社の責任で行う必要があります。

フルスクラッチ同様に高度な技術力が要求される面もあり、社内に十分な開発体制がない場合は、オープンソースと言えど安易に扱うのは難しいでしょう。

自社に技術力があり、既存のOSS(オープンソースソフトウェア)を土台にしつつ独自機能を作り込みたい場合には、有力な選択肢となります。

ASP/SaaS型ECサイト構築との違い

ASP/SaaS型は、クラウド上で提供される既製のECシステムを利用し、自社専用の開発をほとんど行わずにサイトを開設する手法です。

月額料金などでサービスをレンタルし、管理画面上で設定やデザインカスタマイズを行うだけで比較的簡単にECサイトを立ち上げられるのが特徴です。

フルスクラッチとの最大の違いは、初期費用と立ち上げ時間の圧倒的な低さにあります。自前で開発する必要がないため、数万円~数十万円程度の予算と数日~数週間程度の準備でサイトオープンできてしまうケースも珍しくありません。

そのため、以下のケースにおいては、ASP/SaaSが適しているでしょう。

  • テスト的にECを始めてみたい場合
  • 小規模なECサイトを低コストで立ち上げたい場合

しかし、ASP/SaaS型は「カスタマイズ性が限定的」である点に注意が必要です。提供事業者が用意した機能・仕様の範囲内でしかサイトを作れないため、独自の機能追加や他システムとの細かな連携には制約があります。

他の業務システム(基幹システムやCRM、MAツールなど)とデータ連携したい場合も、標準提供のAPIや機能で対応できなければ諦めるか追加開発(できる範囲でのカスタム)を待つしかありません。

これに対してフルスクラッチであれば、社内システムや実店舗との独自連携なども柔軟に実現可能です。

また、ASP/SaaSではプラットフォーム自体のアップデートは提供企業任せになるため、自社の都合でシステム変更のタイミングを決めにくいという面もあります。

フルスクラッチ開発を選ぶメリット

フルスクラッチ開発を選ぶメリット

ECサイトをフルスクラッチで構築するかを検討する際は、そのメリットも判断材料に使いましょう。

ECサイトのフルスクラッチ開発には、主に以下のメリットがあります。

  • カスタマイズ自由度が最も高い
  • 要件変更や機能追加がしやすい
  • 他システムとの連携・拡張がしやすい
  • PDCAサイクルを高速化できる

ここでは、これらのメリットについて解説します。

カスタマイズ自由度が最も高い

フルスクラッチ開発最大のメリットは、システムを完全に自社仕様にカスタマイズできることです。

パッケージやASPでは実現が難しい「細部のこだわり」まで表現でき、たとえば特定の顧客層向けに購入プロセスを特殊な流れにしたり、商品ページの表示レイアウトを独自の形式にしたりと、あらゆる要素を自社の戦略に合わせて設計できます

トップページのデザインやレビュー機能の仕様に至るまで自由に決められるため、自社ブランドイメージに合致した唯一無二のECサイトを作り込むことが可能です。

このように「デザイン面・機能面の自由度が極めて高い」ため、ユーザー体験や提供価値で競合との差別化を図りやすくなるでしょう。

要件変更や機能追加がしやすい

フルスクラッチで構築したECサイトは、開発後の改修や拡張にも柔軟に対応できます

自社でコードを所有・管理しているため、「新しいキャンペーンに合わせて○○の機能を追加したい」といった場合でも、自社の都合に合わせて機能の仕様やリリース時期を決められるのが強みです。

パッケージやASPでは提供元のアップデートを待たねばならないような変更でも、フルスクラッチなら自社内(または開発を委託したベンダー)で即対応できます。

たとえば、以下のケースについても、自社の判断でスピーディに実施可能です。

  • ECサイトの使い勝手向上のためのUI改修
  • 新決済手段の導入
  • バックエンドの業務フロー改善(商品情報管理や受注処理の変更など)

このように、要件の変化や新たな施策に対し「迅速にサイトをアップデートできる」ため、市場環境の変化に合わせた最適化を自律的に行えるようになります。

他システムとの連携・拡張がしやすい

フルスクラッチで構築したシステムは、他の社内システムや外部ツールとの柔軟な連携が可能です。

ECサイトのデータを基幹システムや在庫管理、CRM、マーケティングオートメーション(MA)などと統合し、シームレスに情報連携したい場合、フルスクラッチなら必要な機能を自由に実装できます。

たとえば、次のように既存サービスでは「実現困難なシステム統合」も、フルスクラッチなら対応が可能です。

  • 実店舗のPOSデータとECの購入履歴を統合して顧客を横断管理
  • メーカー直販ECならではの独自な受発注フローの構築 など

また、企業ごとに異なる業務プロセスやルールにも合わせ込みやすく、自社に適合したECプラットフォームを作り上げることができます。

標準パッケージでは難しい「細かな拡張やカスタム連携」ができるのは、フルスクラッチならではの強みです。

PDCAサイクルを高速化できる

フルスクラッチによる内製システムであれば、ユーザーの反応や市場トレンドに合わせて「素早くサイト改善を実施」することが可能です。

自社でソースコードを管理しているため、たとえば管理画面の使い勝手を向上させる改修や、新たなマーケティング施策に対応した機能追加など、課題発見から解決までのサイクルを短縮できます。

実際、大手企業ではマーケティング部門がサイトの効果測定で得た仮説をもとに、社内開発チームが迅速に改修を行いA/Bテストを重ねることで、コンバージョン率(CVR)の向上に繋げている例もあります。

このように「開発と改善を自社主導で高速に回せる」ことは、フルスクラッチ内製の大きなメリットです。

結果としてユーザーにとっても運営側にとっても使いやすいサイトへと継続的に最適化でき、EC事業の競争力強化につながります。

フルスクラッチ開発のデメリット・課題

フルスクラッチ開発のデメリット・課題

ECサイトのフルスクラッチ開発には、いくつかのメリットがある一方、以下のデメリットや課題が存在するのも事実です。

  • 導入・運用コストが非常に高い
  • 開発完了までに長い期間を要する
  • 専門スキルを持つ人材が必要となる
  • システム保守・アップデートの負担が大きい
  • システムが属人化・ブラックボックス化しやすい
  • 外注した際にベンダー依存になる

これらのデメリットや課題についても、ここから紹介します。

導入・運用コストが非常に高い

最大のデメリットは、何と言っても「費用面の負担が極めて大きい」ことです。

フルスクラッチによるECサイト構築費用は一般的に数千万円以上かかり、場合によっては数億円規模に達します。これは他の構築手法と比較して桁違いの投資額であり、初期開発費用に加えて保守・機能追加のたびに追加コストも発生します。

また、サイト運用にも毎月多額の費用が必要で、ランニングコストが月数十万円規模に及ぶことも珍しくありません。

コストを抑えたい中小規模の事業者にとって、この金銭的ハードルは非常に高く、結果としてフルスクラッチを選べる企業は限定されます。

費用対効果の見極めが難しい点も課題で、投じた巨額のコストに見合うリターンを長期的に得られるか慎重な判断が必要です。

開発完了までに長い期間を要する

フルスクラッチ開発は、プロジェクトの完了までに非常に長い時間を要します。要件定義から実装・テストまで全工程を自前で行うため、どうしても開発期間が延びる傾向があります。

特に、大規模で複雑な要件を持つECサイトほど完成までに1年以上、場合によっては数年単位の期間が必要です。

市場投入が遅れることで競合に後れを取るリスクもあり、スピード重視のビジネスには不利になります。

また、プロジェクト管理の難易度も高いです。長期化する開発では要件変更やメンバー交代など想定外の事態も起こりやすく、進行管理が甘いと「いつまでも完成しない」状況に陥る恐れがあります。

実際、適切な進行管理ができていないとフルスクラッチ案件は迷走しがちであり、スケジュール遅延によるビジネス機会損失も起こりかねません。

したがって、フルスクラッチを選択する際は長期戦を覚悟し、綿密なスケジュール設定とマイルストーン管理が欠かせないでしょう。

専門スキルを持つ人材が必要となる

ゼロからシステムを作り上げるには、高度な専門スキルを持つエンジニア人材が不可欠です。

フルスクラッチ開発ではフロントエンド(UI/UXデザインやコーディング)からバックエンド(サーバーサイド開発、データベース設計)、インフラ構築、セキュリティ対策に至るまで多岐にわたる知識・技術が要求されます。

そのため、社内開発の場合は各分野に精通したメンバーを揃えなければならず、人材の確保・育成自体が大きな課題です。

近年のIT人材不足も相まって、有能な開発者を十分な人数確保できる企業は限られており、実際問題としてフルスクラッチでの内製開発を遂行できるのはごく一部の大企業に限られるのが現状です。

一方、開発を外注する場合でも、委託先の企業にそれだけの開発スキル・実績があるか慎重に見極める必要があります。

どちらにせよ「高スキル人材への依存度が高い」ため、人材確保や技術的リスクも考慮した計画が求められます。

システム保守・アップデートの負担が大きい

フルスクラッチで構築したシステムは、リリース後の保守・運用にも手間がかかります。自社独自に開発したがゆえに、時間の経過とともにシステムが陳腐化していくのを自社で補っていかなければなりません。

セキュリティアップデートの適用、新しい技術への対応、パフォーマンス改善など、短いスパンでの小規模改修に加えて数年ごとの大規模アップデートも必要になるでしょう。

また、日々の運用においても障害対応や細かな機能改善など、やるべきことが次々出てきます。

こうした継続的な改善・メンテナンスに対するコミットメントを長期間維持する必要がある点は、フルスクラッチ開発を選ぶ際に覚悟すべきポイントです。

他の手法であればパッケージベンダーやクラウド事業者が対応してくれるOSやミドルウェアのアップデートも、フルスクラッチでは自社で対応する必要があります。

運用体制をしっかり整えないと、せっかく作ったシステムが徐々に時代遅れになってしまう恐れもあります。したがって、フルスクラッチ導入後は「保守専任の人員配置や計画的なアップデート戦略」を持っておくことが重要です。

システムが属人化・ブラックボックス化しやすい

フルスクラッチで開発したシステムは、その構造やコードが「特定の個人やチームに属人化しやすい」という問題もあります。

内製開発の場合、開発に関わったメンバーしかシステム全体を把握しておらず、担当者の異動や退職でノウハウが失われると残された人では手を付けられない「ブラックボックス」化に陥るリスクがあります。

外部ベンダーに開発を委託した場合も同様で、完成したシステムの詳細を自社で十分理解できていないと、以後の改修時に社内で対応できず「特定の開発者やベンダーに依存」せざるを得なくなります。

実際、フルスクラッチで作られたシステムは他社では対処しづらく、最初に構築を依頼したベンダー以外に乗り換えることが難しいという指摘もあります。コード開示に積極的な開発会社であれば良いですが、そうでない場合は自社内でブラックボックスを抱えることになりかねません。

この属人化リスクを軽減するには「ドキュメント整備」や「コード共有」を徹底し、特定の人だけが分かる状況を避ける工夫が必要です。また、可能であれば社内のIT担当者も開発に部分的に加わり、システム理解を深めておくといった対策も有効でしょう。

外注した際にベンダー依存になる

フルスクラッチ開発を外部に委託する場合、構築後の運用・改修において「特定ベンダーへの依存度が高くなる」点にも注意が必要です。

オリジナル開発ゆえに別の会社へ途中から切り替えることが難しく、仮に契約先の開発会社との関係が悪化したり、サービス提供が停止してしまった場合に、自社だけでは対処できないリスクがあります。

パッケージ開発であれば別のパッケージへデータ移行して乗り換えるといった手も考えられますが、フルスクラッチではそもそも他に代替となるプラットフォームがないため、ベンダーロックイン(特定業者へのロックイン)状態に陥りやすいです。

このリスクを下げるためには、契約時にソースコードの開示やドキュメント提供を契約に盛り込む、複数ベンダーと協力関係を築いておくなどの工夫が考えられます。

最終的には、自社内に一定の技術的知見を残し、いざという時は別ベンダーでも引き継ぎが可能な状況を作っておくことが理想です。

フルスクラッチが適しているケース・企業の特徴

フルスクラッチが適しているケース・企業の特徴

自社にとってフルスクラッチ開発が適しているかどうか、既存のケースを判断材料にすることも有益です。

ECサイトのフルスクラッチ開発が適しているケース・企業の特徴として、以下を取り上げます。

  • 既存製品では対応できない独自要件がある
  • 潤沢な予算・リソースを投下できる
  • 技術を内製化し自社で運用したい
  • 自社ECを競争力の中心と考えている

これらの状況が自社にあるかどうか、照らし合わせながら検討してみてください。

既存製品では対応できない独自要件がある

自社のビジネスモデルやサービス内容に、市販のECプラットフォームでは実現困難な要件が含まれる場合、フルスクラッチが適した選択肢となります。

たとえば、予約機能や独特なサブスクリプション方式など、通常のECサイト機能の範疇を超える仕様が必要なケースです。

既存のパッケージを無理にカスタマイズして対応しようとしても費用が膨大になったり、そもそもベンダーに断られてしまうような独自要件が多い場合には、初めからフルスクラッチで作る方が現実的です。

要するに、自社の要求にフィットする既存サービスが見当たらない場合や、機能要件の特殊性が高い場合には、フルスクラッチが唯一の解決策となり得ます。

潤沢な予算・リソースを投下できる

前述の通り、フルスクラッチ開発には巨額の費用と長期の時間、そして高度な人材が必要です。そのため、投下できる予算や社内リソースが潤沢にある企業でなければ現実的に遂行できません。

目安として年商規模で数十億円以上、IT投資に積極的で資金的な余裕がある企業であれば、フルスクラッチにチャレンジする土壌が整っていると言えるでしょう。裏を返せばそれ以下の規模の場合は費用対効果が見合わずリスクが高いと判断できます。

また、単にお金があるだけでなく、プロジェクトを担える人的リソース(社内外のエンジニア、プロジェクトマネージャーなど)を確保できることも重要です。

総合的に見て、フルスクラッチは大企業や資金力のある企業向けのハイリスク・ハイリターンな手法だと言えるでしょう。

技術を内製化し自社で運用したい

自社でシステム開発力を持ち、ノウハウを社内に蓄積していきたいと考える企業にもフルスクラッチは向いています。

クラウドサービス全盛の現代においても「重要なシステムはできるだけ内製化し、ブラックボックス化を避けたい」と考える企業は少なくありません。自社で技術者チームを抱え、システムを自分達の手でコントロールしたい企業にとって、フルスクラッチは内製化を実現するための手段となります。

外部パッケージやSaaSではソースコードまでは触れないため、細部の挙動まで把握・改善するには限界があります。その点、一から自社開発したシステムであれば、隅々まで構造を理解しコントロールできるため、運用面での不安要素が減ります。

実際、Amazonやユニクロなど、自社ECを中核事業とする企業は独自開発で全てを掌握する道を選んでいます。

もっとも、内製化にはそれ相応の開発力が必要であり、優秀なエンジニア陣を抱え込める企業に限られるのも事実です。

自社ECを競争力の中心と考えている

ECサイト自体を自社事業の競争優位を生み出す源泉と位置づけ、常に改善を重ねて売上を最大化していきたいと考える企業も、フルスクラッチを選ぶ傾向があります。

自社ECで独自の顧客体験を提供し、そこでの高い転換率やリピート率を競争力に結びつけたい場合、既成のプラットフォームではなく「自社主体で改良を重ねられる土台」が必要になります。

マーケティング部門と開発部門が一体となって、データ分析→仮説検証→機能改善というPDCAを高速に回し続けるには、フルスクラッチによる内製ECプラットフォームが適しています。

実際、コンバージョン向上のために細かなUI/機能変更を繰り返しテストするような体制は、内製でなければ実現困難です。

ECを事業戦略の中核に据えており「自社ECサイトそのものが競争力」と捉えている企業ほど、フルスクラッチで自由度高くサイトを育てていく価値があると言えるでしょう。

フルスクラッチ開発を成功させるポイント

フルスクラッチ開発を成功させるポイント

膨大な費用や期間を要するフルスクラッチ開発をスムーズに進めていくには、以下に挙げたポイントを押さえておくことが大切です。

  • 開発前に詳細な要件定義を固める
  • 必要な人材スキル・予算を事前に確保する
  • 実現可能なスケジュールを設定する
  • リリース後を見据えた準備をする

これらはフルスクラッチ開発を成功させるために欠かせないポイントになるため、自社の状況に照らし合わせながら実行可能か判断しましょう。

開発前に詳細な要件定義を固める

フルスクラッチ開発を成功させるには、スタート段階で「綿密な要件定義」を行うことが不可欠です。

どんなサイトにするのか完成後のイメージを明確に描き、必要な機能・仕様を洗い出して合意しておかないと、出来上がったものが当初期待したものとズレてしまう可能性が高まります。

要件定義の段階では関係者間で認識合わせを十分に行い、決定した内容はドキュメント(要件定義書)に落とし込んでチーム内で共有しましょう。

このとき、抜け漏れなく要件を網羅し、優先順位も含めて合意形成しておくことが重要です。フルスクラッチは後からの仕様追加・変更も可能とはいえ、開発途中の大幅な要件変更はコスト増・納期遅延のリスクを招きます。

「何を作るのか」を曖昧なまま走り出さず、事前にゴールイメージを固めてから開発に着手することがポイントになります。

必要な人材スキル・予算を事前に確保する

フルスクラッチ開発には多方面の専門スキルを持つ人材と、それらを稼働させるための十分な予算が必要です。

プロジェクト開始前に、技術要件を実現できる開発メンバーのスキルレベルを確認しておきましょう。もし社内人材で不足があれば、外部から適切な人材を招いたり、あるいは信頼できる開発会社に協力を仰ぐことも検討します。

開発途中でスキル不足が判明して対応不能に陥ると、全てやり直しになり時間・コストが大幅に無駄になるリスクがあるため事前チェックが肝心です。

具体的には、候補の開発者や委託先に「過去の開発実績(ポートフォリオ)」を見せてもらい、以下を確認してチームの技術力を見極めましょう。

  • ECサイト開発の豊富な経験があるか
  • 自社の業態・規模に似たプロジェクト実績があるか

また、開発を円滑に進めるためにはデザイナーやディレクターなど「各分野の人材を適材適所に揃える」必要もあります。

併せて、見積もった開発予算に対して社内の承認を得ておくことも重要です。途中で予算不足となり開発が中断するという事態を避けるため、資金計画に余裕を持たせておくことが成功への前提条件です。

実現可能なスケジュールを設定する

プロジェクト開始時に「現実的かつ明確なスケジュール」を立てることも成功のポイントです。

まず、開発工程のフローを洗い出し、設計・実装・テストなど各フェーズに必要な期間を見積もります。その上でマイルストーンを設定し、誰がいつまでに何を完了させるかタイムライン上で可視化します。

特にフルスクラッチの場合、多くが半年~1年超の長期プロジェクトになるため、適切な進行管理ができないと「いつまで経っても完成しない」状況に陥りかねません。

スムーズに開発を進めるにはマイルストーン管理が有効で、例えば「○月末までに基本設計完了」「△月末までにプロトタイプ完成」といった節目を明示して進捗をチェックしていきます。

もし社内開発に不慣れであれば、外部のプロジェクトマネージャー支援を受けるのも手です。

重要なのは、無理のないスケジュールを組むと同時に、状況に応じて計画を見直す柔軟性も持たせることです。リスク管理とスケジュール調整を適切に行い、プロジェクト全体をコントロールすることで、計画通りのリリースに近づけることができます。

リリース後を見据えた準備をする

フルスクラッチ開発はリリースして終わりではなく、むしろ「リリース後からが本番」とも言えます。そのため、サイト公開後の運用・改善まで見据えた準備を事前に行っておくことが大切です。

まず、リリース直後に発生しうる不具合対応やユーザーからのフィードバックに迅速に対処できるよう、運用保守体制を整備しておきます。

具体的には、リリース後一定期間は開発メンバーを待機させておきバグ修正に即応できるようにしたり、問い合わせ対応のフローを決めておくなどです。

また、中長期的には機能追加や改善の計画を立て、定期的にアップデートを実施していくロードマップも描いておきましょう。

さらに、社内にノウハウを残すための「技術ドキュメントの整備」や、運用担当者への引き継ぎ・トレーニングも重要です。

セキュリティ面では脆弱性対応やログ監視の仕組みを導入し、トラブル予防策を講じておきます。

ECサイトのオープンはゴールではなくスタートと捉え、リリース後も円滑にPDCAを回せる体制を事前に準備しておくこともフルスクラッチ開発を成功させるポイントです。

まとめ フルスクラッチ開発は内製すべきか?外注すべきか?

まとめ フルスクラッチ開発は内製すべきか?外注すべきか?

フルスクラッチ開発プロジェクトを進めるにあたり、内製(社内開発)するか、外注するかは、戦略上の大きな判断ポイントです。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の状況に合わせて選択しましょう。

【内製するメリット】

  • ノウハウが社内に蓄積される
  • 改善やトラブル対応も自前で行いやすい
  • コミュニケーションが取りやすい
  • 細かな仕様調整やデザイン修正もスムーズにできる

【内製するデメリット】

  • 高いスキルを持った人材の確保が必要となる
  • 人件費がかかる

【外注するメリット】

  • 社内リソースを開発に割かずに済む
  • 自社に専門人材がいなくてもプロジェクトを進められる
  • 進行管理も請負先に任せられるので負担が軽減する

【外注するデメリット】

  • コストが高くつきやすい
  • ベンダー依存のリスクがある

結論として、頻繁な改善が見込まれる戦略的ECサイトであれば内製が理想的です。

一方、そこまでの内製体制や継続運用の覚悟がない場合は信頼できる開発会社に外注するのも一つの手です。その際は、先述のようにベンダー選定と契約内容(ソースコード開示やサポート範囲など)に留意し、長期的なパートナーシップを築けるか見極めましょう。

自社のリソース状況とEC事業の重要度を踏まえ、内製か外注かベストな形を選んでください。

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