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ECと実店舗を運営する事業者にとって、それぞれの商品在庫などの連携は悩ましい課題ではないでしょうか。顧客の購買行動も多様化し、その要望に対応できていないと焦ってはいませんか?

そんな悩みを解決するのが「オムニチャネル」です。オムニチャネルとは、実店舗とECの垣根をなくし、顧客がシームレスに買い物を楽しめる仕組みのことです。

本記事では、オムニチャネルの基礎知識から導入手順、成功事例まで詳しく解説します。マルチチャネルやクロスチャネルとの違いを理解し、自社に最適なオムニチャネル戦略を立てましょう。

オムニチャネルとは

オムニチャネルとは

オムニチャネルとは、消費者が実店舗、EC、モバイルサイト、SNS、オフラインメディアなど、あらゆる媒体を自由に経由して商品を購入できる販売戦略のことです。

主に実店舗を構える小売業を中心に、実店舗とECサイトをかけ合わせた、事業拡大を測るための戦略として推進されています。

例えば、オンラインで注文した商品を実店舗で受け取ったり、実店舗とオンラインの在庫連携などが上げられます。日本では2014年ころから注目されはじめ、コロナ禍以降さらに、企業がオムニチャネルを推進しようとする動きが高まっています。

オムニチャネルはいつ生まれたのか時系列で紹介

オムニチャネルという仕組み・販売戦略がどのようにして生まれたのか、時系列に沿って説明します。

【1990年代】
買い物を行うのは実店舗のみという時代です。実際に顧客が足を運べる範囲が商圏となるため、店員と顧客が互いに顔見知りであることが当たり前だったからこそ、コミュニケーションも濃密でした。

【2000年代】
そこからECが誕生し、インターネットで買い物ができるという時代になりました。ただし、店舗とECは別事業で運営されることが多かったため、管理も実店舗とは別部署で運用されているところがほとんどという状況です。

【2010年代】
スマートフォンが普及し、EC事業が活発化します。顧客のニーズも多様化し、ECで購入した商品を店舗で返品したい、すぐに使いたいからECで購入し店舗で受け取りたいといった要望が多くなってきました。
しかし、実店舗とECで在庫や顧客データが統合されていなかったため、顧客の要望に応えることができません。そこで、チャネル同士で在庫や顧客データなどを統合する動きがはじまり、それがオムニチャネルのきっかけとなります。

【2020年代】
チャネル間でのデータ統合が進み、さらにそのデータをどのように活用していくかが注目されはじめました。そこで統合したデータを活用した施策を行うOMO(Online Merges with Offline)が誕生しました。OMOとオムニチャネルの違いは後ほど解説します。

オムニチャネルとマルチチャネル・クロスチャネルの違いは何?

オムニチャネルとマルチチャネル・クロスチャネルの違いは何?

オムニチャネルと混同しがちな概念に、マルチチャネルとクロスチャネルがあります。オムニチャネルとの違いは何か、どういう関係性になるのかについてみていきましょう。

マルチチャネルは入り口が複数あること

マルチチャネルとは、顧客が商品を購入できる場所が複数用意されている状態です。実店舗だけでなく、EC、アプリ、カタログ、電話注文、ファックスといったさまざまなチャネルからアクセス・購入できることをいいます。

ただし、各チャネルは独立しており連携されていないため、ECで購入して店舗で受け取るといった購買体験を繋ぐことはできません。

この点、オムニチャネル複数チャネル間のデータが連携されるため、顧客は購入するチャネルや受け取り方法を自由に選択できます。

クロスチャネルはチャネルごとの連携がとれていること

クロスチャネルとは、マルチチャネルが進化したもので、チャネル間をまたいだ購買行動を促す仕組みです。例えば、実店舗に来店した顧客に、ECで購入するとお得になるというキャンペーンを実施し、ECサイトの利用を促すといったことがあります。

クロスチャネルはチャネル間での連携はありますが、全てのデータ連携ができているわけではないという点が、オムニチャネルと異なる部分です。

オムニチャネルとOMOの違いは?

オムニチャネルとOMOの違いは?

オムニチャネルとOMOも区別が付けにくい概念です。OMOとは「Online Merges with Offline」の略で、オフラインとオンラインの統合を意味します。

どちらもオンラインとオフラインの融合というのは共通していますが、使用する階層が異なります。どのように異なるのか説明します。

オムニチャネルを前提とするのがOMO

近年は企業のオムニチャネルへの対応が進み、そのデータを活用したマーケティング手法が登場しています。それが、OMO(Online Merges with Offline)です。

オムニチャネルが、実店舗とECのデータ統合によってチャネルの垣根を無くす販売戦略であるのに対し、OMOはオムニチャネルを活用して顧客の購買体験を向上させるための施策・手法のことをいいます。

例えば、洋服を店舗で試着した際、ECの購入履歴から店員が他のコーディネートをおすすめしてくれるなどです。

実店舗があるからこそできるマーケティング手法で、商品の価格や物理的な情報だけでなく、購買体験そのものを価値として提供します。

OMOによって顧客の満足度を高めるためには、チャネル間のデータ連携は不可欠です。そうした意味で、OMOはオムニチャネルを前提としているといえるでしょう。

オムニチャネルの3つのメリット

オムニチャネルの3つのメリット

オムニチャネルには3つのメリットがあります。

  • 顧客体験の向上で売上の増加が見込める
  • 在庫の最適化によって機会損失や過剰在庫がなくなる
  • データ活用でマーケティング戦略が立てられる

それぞれについてみていきましょう。

顧客体験の向上で売上の増加が見込める

オムニチャネルを実施すると、チャネル間での顧客データの統合が可能です。そうすることで、顧客の商品選びから購入、サポートといった顧客体験がチャネルによって断絶されることがないため、顧客の満足度が高まります。満足度が高い店は繰り返し利用してもらえ、売上の増加に繋がるでしょう。

在庫の最適化によって機会損失や過剰在庫がなくなる

オムニチャネルのメリットの2つ目は、在庫の最適化です。チャネル間の在庫データを統合することで、実店舗とECの在庫を相互に有効活用できます。

実店舗に在庫はあっても、ECが売り切れといった場合でも、実店舗の在庫を振り分けられるため、販売機会を逃しません。また、各チャネルの在庫を一元管理することで、余分な在庫を抱える必要がなく、財務状況も改善します。

データ活用でマーケティング戦略が立てられる

オムニチャネルによってチャネルを横断した顧客データを統合することで、より深いマーケティング戦略が立てやすくなります。

例えば、チャネルをまたいだ顧客の購買行動を分析し、顧客に合った商品をおすすめしたり、キャンペーンを展開したりできるでしょう。

また、実店舗とECサイト上で同一のポイントが貯まり、全国の店舗もしくはECサイト上で使用することも可能にできます。

他には、実店舗とECで購入される商品の違いもわかりやすくなるなど、データを活用したマーケティングが可能になります。

オムニチャネル化を進める手順

オムニチャネル化を進める手順

オムニチャネル化を進める手順について説明します。手順としては、下記の4つです。

  • オムニチャネル化の目的や目標を設定する
  • プロジェクトを推進できるリーダーを決める
  • 顧客の購買行動を分析する
  • 全社的な一貫したシステムを構築する

それぞれについて詳しく説明します。

オムニチャネル化の目的や目標を設定する

オムニチャネル化の最初のステップは、目的と目標を設定することです。オムニチャネル化は、これまで別々に管理されていたチャネルを統合することなので、全社に統一した理解を浸透させるためにも、目的や目標の設定は必須となります。

一般的なオムニチャネル化の目標は下記のとおりです。

  • 複数チャネル間の在庫連携
  • 複数チャネル間の売上・顧客データの統合
  • 店舗受け取りや配送といった、商品受け取り方法の増加

これらの目標に加え、スタッフが納得できる目的を設定することで、プロジェクトはスムーズに運びやすくなるでしょう。

プロジェクトを推進できるリーダーを決める

オムニチャネル化は部署を横断したプロジェクトになるため、リーダー選びが重要になります。

リーダーになる人物は、ITリテラシーがあり、経営サイドの視野も広く持てる役員や管理職が理想的です。

実店舗とECそれぞれが売上を管理している場合、オムニチャネル化を実現した後は、どのチャネルの売上かという考え方ができなくなるため、リーダーシップを持って推進する必要があるのです。

オムニチャネル化を行う際には、リーダー選びも慎重におこないましょう。

顧客の購買行動を分析する

オムニチャネル化を推進するには、顧客にどういった顧客体験を提供するかをイメージすることが大切です。

商品やサービスを提供するペルソナを設定し、どういった購買行動を行うか予想します。例えば、店舗で商品に触れてECで購入する行動が予測できれば、それに合わせた物流体制にしなければなりません。

データ統合だけでなく、物流や現場のオペレーションを含めて、顧客の購買行動を基にしたオムニチャネル化の推進が必要です。

全社的な一貫したシステムを構築する

オムニチャネル化の柱となるのが、システムの構築です。

バラバラだったデータを統合するだけでなく、物流、売上管理、在庫、顧客とのコミュニケーションなど、部署をまたいだ全社的な一貫したシステムを構築しなければなりません。

事業規模が大きければ大きいほど、その難易度は高くなります。

システム構築を外部事業者と行う際には、自社に合わせたシステムを構築できる、ECや物流に精通した事業者を選定することをおすすめします。

オムニチャネル化を実現するための注意点

オムニチャネル化を実現するための注意点

オムニチャネル化を実現するには、3つの注意点があります。

  • 顧客視点での設計
  • 自社の規模に合ったシステムの導入
  • 店舗やECスタッフの教育や社内連携

それぞれの注意点について詳しくみていきましょう。

顧客視点での設計

オムニチャネルを実施するうえで重要なのは、顧客視点での設計です。

企業がオムニチャネルに取り組む理由は、顧客の購買体験や利便性の向上にあります。

しかし、手段が目的化してしまうことは珍しくありません。

チャネルの統合が目的とならないよう、顧客視点を常にもって取り組む必要があります。

自社の規模に合ったシステムの導入

自社の規模に合ったシステムを導入することも、オムニチャネル化には大切なことです。

例えば、実店舗とECを各1店舗運営している事業者と、それぞれ数店舗運営している事業者では、システムに必要となる機能も変わってきます。

事業規模が大きくなれば、物流や会計といった連携するシステムも増えるため、それに合わせたオムニチャネル構築のシステムを導入しましょう。

まずはオムニチャネルで実現したいことを明確にするところから始めてみてください。

店舗やECスタッフの教育や社内連携

オムニチャネルの構築では、スタッフの教育は欠かせません。

オムニチャネルを利用する顧客は、チャネルの違いを意識せず、チャネルをまたいで利用します。

チャネルが異なっても一貫したサービスを提供するには、スタッフもそれぞれのチャネルについて理解しなければなりません。

実店舗のスタッフはEC運営について、ECのスタッフは実店舗の接客についてそれぞれ理解することで、顧客にチャネルを意識させないシームレスなサービスが展開できます。

オペレーションを構築する際にも、現場の声は重要です。特に、店舗受け取りなどを行う、実店舗スタッフの負担は大きくなるため、店内の導線やシステム処理など現場からヒアリングし、社内連携を慎重に進めましょう。

オムニチャネルの成功事例

オムニチャネルの成功事例

オムニチャネルの成功事例を3社紹介します。

  • アパレル「ベイクルーズ」
  • 食品「イオン」
  • ヘルスケア「マツキヨココカラ」

オムニチャネルにどのように取り組んでいるのか、詳しくみていきましょう。

アパレル「ベイクルーズ」

 

アパレル「ベイクルーズ」

参照元:BAYCREW’S STORE

アパレル事業を展開するベイクルーズグループは、自社ECを起点としたオムニチャネル戦略に早くから取り組み、EC売上高を5年間で5倍に伸ばしました。

オムニチャネルに取り組んだ背景としては、次の2つの理由があります。

  1. アパレル業界全体でネット通販シェアが拡大し、リアル店舗の顧客が減少する中、顧客接点の減少に対処する必要があった
  2. ネット通販大手に顧客を奪われないよう、自社でインターネットビジネスを強化する必要があった

具体的な取り組みとしては、ECモールから自社ECサイトへの売り上げをシフトすることや、ECの専門組織の立上げ、Webと実店舗の会員・在庫情報の連携があります。

特に、Web 上から店舗の在庫を取り置きできるようにするなど、オンラインとオフラインの垣根を低くすることに注力しました。

その結果、Web と実店舗の両方で買い物をする顧客が増え、売上増に繋がったということです。

今後は特に、コミュニケーションの統合を進め、リアルタイムでパーソナライズされた対応を実現する方針としています。

食品「イオン」

 

食品「イオン」

参照元:AEON.com

小売り大手のイオンは、2026年までにデジタル売上高1兆円を目標に掲げています。22年度の決算では1300億円と、20年2月期から1.85倍に拡大しており、さらに成長率を加速させる方針です。

同社では、小売り、金融、エンターテインメントなど幅広い事業を展開していますが、それぞれ別の顧客IDで運営されてきました。そのため、顧客の利便性が低く、キャンペーンから購買への引き上げも難しいという課題があったといいます。

そこで、デジタル部門の人員を強化し、顧客を中心として各事業が横で繋がるシステムの構築に乗り出しました。また、ネットスーパーのスケール拡大のために、ピッキングや配送システムの見直しも行っています。

今後はイオンの各事業がシームレスに繋がる「イオン生活圏」の実現に向けて、オムニチャネル化と同時にOMOを推進していくということです。

ヘルスケア「マツキヨココカラ」

 

ヘルスケア「マツキヨココカラ」
参照元:マツキヨココカラ

ドラッグストア大手のマツキヨココカラでは、店舗とECを組み合わせたオムニチャネル戦略に力を入れています。

同社がオムニチャネル戦略に取り組む狙いは、店舗だけでなくECやアプリで顧客とのタッチポイントを増やし、売上アップに繋げることです。また、オムニチャネルで獲得したデータをメーカーに還元し、メーカーのマーケティング支援を行うことにも取り組んでいます。

具体的には、2019年に「Matsukiyo Ads(マツキヨアド)」というサービスの展開を開始しました。広告とアプリを連携し、広告を起点として購入に至った情報や、顧客の声をメーカーに提供することで、商品開発などに活かします。

同社では、オムニチャネルのデータを活用し、メーカーと顧客の接点を作ることで、メーカーだけでなく顧客のエンゲージメントも高まると期待しています。今後は、広告を自社メディアなどでも行い、さらにリーチ範囲を広げていく予定だそうです。

まとめ オムニチャネルで更なるデータ活用へ

ここまでオムニチャネルについて説明しましたが改めてオムニチャネルについて説明すると、オムニチャネルとは、実店舗とECの垣根をなくし、顧客が複数の媒体を自由に行き来しながら商品を購入できる販売戦略のことです。

マルチチャネルやクロスチャネルとは異なり、オフライン・オンライン間の全てのデータを連携させるのが特徴です。

メリットとして、顧客体験の向上による売上増加、在庫の最適化、データ活用によるマーケティング戦略の立案などが挙げられますが、導入には目的や目標の設定、リーダーの選定、顧客の購買行動分析、全社的なシステム構築などが必要になります。

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