ECサイトの規模が大きくなってくると、独自機能の追加、処理速度の安定化、などの対策が必要となります。
しかし、このような状況を見越してECサイトを構築する場合、フルスクラッチか、パッケージ型かで迷うことも多いでしょう。
そこで本記事では、フルスクラッチのメリットやデメリット、フルスクラッチに向いている企業、パッケージ型が推奨されるケースなどを解説します。
ECサイトのフルスクラッチ開発とは
フルスクラッチ開発とは、既存のテンプレートやフレームワークを使わず、ゼロからシステムを構築する方法です。この手法は、大規模なECサイトの構築に適しており、企業の具体的な要件に基づいて設計されます。
ユニクロやZOZOTOWNのECサイトがこの方法を採用しており、カスタマイズの自由度が非常に高いのが特徴です。
要件定義から設計、プログラミングに至るまで全てがオリジナルであり、サイトのデザインや機能を完全に自社のニーズに合わせて構築できます。また、他社との差別化が容易になり、特別な機能やシステム要件にも対応可能です。
フルスクラッチ開発は、多くのリソースと高い技術力を必要とするため、開発費用や期間が増加する一方で、大規模なトランザクション処理や高度なカスタマイズが求められる企業にとっては非常に有効な選択肢となります。
フルスクラッチの費用
フルスクラッチでECサイトを構築する場合、初期費用だけで数百万から数千万円がかかります。
おおよその費用感としては、サイトの規模が大きかったり、システム連携が多くなったりすると数千万以上、ときには数億円になるケースもあります。
また、開発にかかるコストの大部分は、技術者の人件費です。おおよその費用感は、以下になります。
- プログラマー:月60万〜100万円
- 初級SE:月60万〜100万円
- 中級SE:月80万〜120万円
- 上級SE:月100万〜150万円
- プロジェクトマネージャー:月100万〜150万円
プロジェクトの複雑さや開発期間によっても、開発にかかる費用は変動します。
費用を抑えるためには、既存システムの一部を利用する、開発ベンダーとの契約形態を工夫する、リスク要因を事前に除去する、などの方法があります。
フルスクラッチ開発の流れ
フルスクラッチでECサイトを構築する際は、社内プロジェクトを立ち上げた後、システム開発を依頼することになります。
システムの開発は、概ね以下の流れで進んでいきます。
- 現状の分析
- 課題の整理
- 要件定義
- 開発・制作
- テスト
- 運用の開始
現状分析や課題の整理後、自社サイトのコンセプト、要望などをもとに、ベンダー側にて要件定義がされ、開発へと進みます。要件定義の際に、必要な機能・自社の要望などをしっかりと伝えておくこともポイントです。
その後、ECサイトの構築やシステム開発が進められ、数回のテストを繰り返した後、新規サイトの開設および運用開始となります。
フルスクラッチと他の構築方法との違い
ECサイトの構築方法には、フルスクラッチ、モール型、ASP型、オープンソース型、パッケージ型などがあります。
それぞれの特徴や費用感をまとめると、以下のようになります。
構築手法 | 特徴 | 費用 |
フルスクラッチ | ゼロベースで開発する方法で、高度な技術力と開発コストが必要。 最も自由度が高い開発方法 |
数千万円以上 |
パッケージ型 | ECサイト運営に必要な一通りの機能を備えたソフトウェアを使用する方法。 クラウドECだと、より柔軟かつ効率的なECサイト構築が可能 |
500万円〜 |
オープンソース型 | 無料公開されているプログラムソースコードを利用してECサイトを構築する方法。セキュリティ対策やサイト改修などは、自社で行う必要がある | 100万〜500万円 |
ASP型 | ECサイト作成に必要な根幹システムを利用し、ブラウザ上で簡単にECサイトが構築可。テンプレートを利用して比較的短時間でECサイトを立ち上げられる | 10万〜100万円 |
モール型 | Amazon、楽天市場、PayPayモール(旧Yahoo!ショッピング)など、既存の大手プラットフォームを利用したECサイト運用。初めてECサイトを運営する場合などにおすすめ | 10万円以下 |
フルスクラッチを含め「ECサイト構築方法別の費用やメリット・デメリット」も把握しておくと、ECサイト構築の選択肢も広がるでしょう。
フルスクラッチでECサイトを作る4つのメリット
フルスクラッチによるECサイト構築には、高額な初期費用がかかる一方で、以下のようにメリットもいくつかあります。
- 柔軟にカスタマイズできる
- 独自機能を実装しやすい
- ブランドイメージを強化できる
- システムの統合がしやすい
これらのメリットにより、長期的には高いリターンが期待できる構築方法です。
柔軟にカスタマイズできる
フルスクラッチでECサイトを構築する最大のメリットは、その柔軟なカスタマイズ性にあります。
既存のテンプレートやフレームワークに縛られず、細部に至るまで自社のニーズやビジョンをベースにしたデザインや機能を自由に設計できるため、他社との差別化を図り、ブランドイメージを強化することが可能です。
また、サイトの拡張性も高く、新たな機能を追加したり、既存の機能を改良したりすることが容易になります。例えば、特定の業務フローに合わせたカスタム機能や、自社サイト独自の機能を実装することができます。
さらに、デザインの自由度が高いため、ユーザーの利便性に沿ったサイトを構築しやすく、結果として顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
独自機能を実装しやすい
既存のツールでは実現できない独自の機能を構築できる点も、フルスクラッチのメリットです。自由にサイト開発ができるため、自社のビジネスモデルに最適化したECサイトを構築できます。
さらに、市場の変化や新しいビジネス機会へ迅速に対応するため、機能の追加や改良が可能です。
例えば、顧客の購買データを分析してパーソナライズされたオファーをする機能や、特定のプロモーションに対応するためのカスタム機能を、短期間で実装することができます。
ブランドイメージを強化できる
企業のブランドイメージを強化できることも、フルスクラッチのメリットです。
既存のテンプレートやパッケージではなく、ゼロから独自に設計するため、サイトのデザインやユーザー体験を「完全に自社のブランドに合わせる」ことができます。
また、ブランドイメージ、ターゲットユーザー層、取り扱う商品などに最適化したサイト作りを実現することで、リピーターの増加や自社に対する信頼性の向上につながります。
例えば、高級感を演出するデザインや、若年層にアピールするポップなデザインなど、ブランドの特性に応じた見せ方が可能です。
さらに、フルスクラッチでは、最新の技術やトレンドを取り入れやすく、ブランドイメージを先進的に見せることができます。これにより、競合他社との差別化を図ることができ、マーケットでの自社のポジションを強化することもできるでしょう。
システムの統合がしやすい
フルスクラッチでは、基幹システムや販売管理システム、CRM(顧客管理システム)、MA(マーケティングオートメーション)ツールなどと、シームレスな連携が可能です。
異なるシステム間のデータを一元管理して業務効率化が図れるとともに、実店舗とECサイトを連携してオムニチャネルでの販売もできるようになります。
例えば、在庫管理や注文処理、顧客データなどのリアルタイム同期、複数店舗とECサイトを連携して実店舗で受け取り、複数ブランドのポイント連携などが挙げられます。
フルスクラッチ型ECサイトのデメリット
フルスクラッチによるECサイトの構築には、以下のようなデメリットもあります。
- 開発コストが高く、開発期間も長くなる
- 高い技術力が必要になる
- ブラックボックス化しやすい
- 保守運用の負担が大きくなる
これらのデメリットも踏まえつつ、フルスクラッチ開発が「自社にとって最適な選択かどうか」を慎重に検討することが重要です。
開発コストが高く、開発期間も長くなる
フルスクラッチでECサイトを構築する場合、初期費用が数千万円に達することがあり、さらにランニングコストも月数十万円に及ぶことがあります。
また、技術者の人件費、インフラ整備、カスタム開発の複雑さ、などによって費用総額は異なります。
さらに、開発期間は半年から1年以上かかることが多く、短期間での構築が難しい点もデメリットです。
開発の遅延や追加費用が発生するリスクもあるため、プロジェクト管理が重要となります。
高い技術力が必要になる
フルスクラッチによるECサイト構築には、当然ながら「高い技術力」が求められます。システムやデザイン、セキュリティ対策など、幅広い分野に精通した人材が必要です。
また、フルスクラッチ開発には、プログラミングやインフラ管理の専門知識も欠かせませんし、最新の技術やトレンドに対応するためのスキルも必要となります。
そのため、高度な人材を確保しているシステム開発会社へ発注できるかがポイントで、信頼できる外注先を選定するためにも、ECサイト構築の知見が深い社員がプロジェクトリーダーになることが望ましいです。
さらに、知見がある人物がリーダーになることで、スケジュールの遅延や開発会社とのトラブル、追加費用の発生、といったことを未然に防ぐことができるでしょう。
ブラックボックス化しやすい
フルスクラッチで構築されたECサイトは、システムの複雑さから「ブラックボックス化しやすい」というデメリットがあります。
開発に関するドキュメントの作成が不十分だと、システムの内部構造が一部のメンバーにしか共有されず、システムの保守運用が属人化しやすいです。
また、異動や退職により開発から数年後にはプロジェクトメンバーがいなくなるケースもあり、詳細なドキュメントが整備されていないと確実にトラブルが発生します。
そのため、開発段階で詳細なドキュメントを作成し、それを定期的にレビューしていくことが重要です。
また、システムの変更や更新時には、適切な引き継ぎが行われるようにする必要があります。
保守運用の負担が大きくなる
フルスクラッチで構築されたECサイトは、その高度なカスタマイズ性ゆえに保守運用の負担が大きくなります。そのため、保守運用が煩雑になることも多く、日常的なメンテナンスや障害対応には高度な技術力が求められます。
また、新しいデザインや機能に対応するためには、大掛かりな開発が必要となることが多く、頻繁に技術的なアップデートが必要です。さらに、他社ツールとの連携が必要な場合、その作業には手間を伴いやすく、コストやリソースの増加につながるでしょう。
システムの脆弱性が発見された際には、迅速に自社で対応する必要があり、そのための専門知識とリソースも欠かせません。もし、外部の運用代行会社を利用する場合には、別途料金が発生することもあるため、トータルコストが増加する可能性があります。
これらの要素も考慮すると、フルスクラッチ開発には「リリース後の保守運用に関する計画とリソース」が必要です。
フルスクラッチ型ECサイトが向いている企業
フルスクラッチ型ECサイトは、開発コストや技術的なハードルが高くなりますが、以下のように「特定のニーズ」を持つ企業にとっては非常に有効です。
- 必要な機能がパッケージ化されていない
- 基幹システムと連携した独自機能が欲しい
- 大規模なトランザクション処理が必要になった
- 自社だけの特別な機能を使いたい
- 社内に十分な開発リソースがある
- 自社ですべて内製化したい
まずは、自社にとって「最適な選択肢かどうか」を慎重に検討することが重要です。
必要な機能がパッケージ化されていない
自社が求める機能が既存のパッケージでは対応できない場合、標準のECパッケージやテンプレートにはない独自の機能を実装したい場合、フルスクラッチは有力な選択肢の1つになります。
例えば、特定の業務フローに合わせたカスタム機能や、特有のビジネスモデルに対応するための機能を追加することなどです。
このように、自社独自の機能を追い求めたい、求める機能がパッケージ機能を大きく超えてしまう、といった場合にはフルスクラッチを検討しましょう
基幹システムと連携した独自機能が欲しい
自社の基幹システムと連携したい、独自の機能を追加したい場合も、フルスクラッチが向いています。
例えば、購入履歴に基づいたポイント制度や特別オファーの提供、在庫数に合わせた自動発注システムなど、自社に合わせた機能を追加したいときなどです。
また、大規模なECサイトでは、複数のシステム間でのデータの同期が重要となるため、フルスクラッチによるECサイト構築が選択肢に入るでしょう。
大規模なトランザクション処理が必要になった
ECサイトの規模が大きくなると、商品数やアクセス数、取り引き数などが増加するため、トランザクション処理の負荷が高まりやすくなります。
こういった場合も、フルスクラッチによるECサイトの構築が向いています。
フルスクラッチでは、サーバーやデータベースの設計を最適化できるため、高いパフォーマンスを維持しつつ、処理速度の低下を防ぐことが可能だからです。
特にセール期間やキャンペーン時など、一時的にアクセスが集中する場合でも、システムが安定して動作することが求められます。フルスクラッチでは、スケーラビリティを確保することで、こうしたピーク時の負荷にも柔軟に対応できます。
自社だけの特別な機能を使いたい
自社独自のプロモーションやイベントに応じてページレイアウトを変更したい、特定の顧客層に合わせて商品表示をカスタマイズしたいなど、自社ECサイトだけの機能を実装したい場合も、フルスクラッチ型がおすすめです。
独自のビジネスモデルに合わせた機能を導入することで、他社との差別化を図ることができるでしょう。
ブランド戦略の一環として、独自のデザインや機能を実装することで、顧客に対して一貫性のあるブランド体験を提供することができ、ロイヤリティを高めることができます。
社内に十分な開発リソースがある
フルスクラッチでECサイトを構築する場合、システムの設計、開発、運用までを自社で完結させるために、社内に十分な開発リソースがあることが重要です。
例えば、年商が50億円以上の企業であれば、潤沢な資金を投入できるため、専任の開発・運営チームを組織し、持続的にシステムを進化させることができます。
資金面でも人材面でも十分なリソースがある場合も、フルスクラッチによるECサイト構築に向いていると言えるでしょう。
自社ですべて内製化したい
自社でECサイトのすべてを内製化したい場合も、フルスクラッチが適しています。
自社開発のメリットは、すべての保守管理を自社で実施できるため、外部へ依頼するよりもコストを抑えられ、迅速かつ柔軟な対応ができる点です。
また、自社でソースコードを管理できるため、社内でシステム改変や機能追加などをしやすく、機密情報が外部に流出することも防げます。
このような理由から、ECサイト構築を内製化したい企業には、フルスクラッチが向いているでしょう。
まとめ 中規模ECサイトはパッケージ型がおすすめ
フルスクラッチは、資金や人材が豊富な大企業向けの構築方法であり、フルスクラッチでECサイトが構築できるケースは限られます。
そのため、それほど規模は大きくないけれど、以下のようなニーズがある場合は「パッケージ型」がおすすめです。
- 自社独自の機能が欲しい
- 構築および運用コストを抑えたい
- ある程度自由にカスタマイズしたい
EC/通販システム総合パッケージ「通販マーケッターEight!」では、個々のクライアントの要望に応じてカスタマイズをして、オリジナルのシステムを構築することも可能です。