近年、オンラインでの消費活動が拡大しており、企業にとってはインターネット上での販売戦略は重要なポイントです。
そして、オンラインとオフラインを融合させる新しいマーケティング手法として、OMOが注目され始めています。
マーケティング活動にOMOを取り入れることで、いま以上に「顧客の満足度」を高められ、さらに「販売機会の損失」も減らすことができるでしょう。
そこで本記事では、OMOやオムニチャネルとの違い、OMOのメリットや成功させるポイント、企業の成功事例などを解説します。
OMOとは何か?意味や基本概念など
OMOとは「Online Merges with Offline」の略称で、オンラインとオフラインを融合させた新しいマーケティング戦略を指します。この概念は、デジタル技術の進化と消費者行動の変化に伴い、近年注目を集めています。
従来のマーケティング手法では、オンラインとオフラインを別々のチャネルとして扱っていましたが、OMOではこの境界を取り払い、シームレスな顧客体験を提供することを目指します。例えば、実店舗で商品を試着し、スマートフォンでQRコードをスキャンしてECサイトで購入するといった体験が可能になります。
一方で、OMOの実現には課題もあります。データベースの構築やシステムの統合、従業員のトレーニングなど、初期投資と継続的な運用コストが必要となります。また、プライバシー保護の観点から、顧客データの取り扱いには十分な注意が必要です。
OMOとオムニチャネルの違い
オムニチャネルは、オンラインとオフラインを別々のチャネルとして捉え、それぞれの特性を活かしながら連携を図る戦略です。オムニチャネルでは顧客との接点を増やし、いずれのチャネルでも同様のサービスを提供することが重視されます。
例えば、洋服を買いに行って店舗に在庫がないとき、ECサイトから購入できたり、最寄りの店舗で受け取りができたり、ユーザーが欲しい商品を好きな場所で受け取れることなどが挙げられます。
一方、OMOはオンラインとオフラインの境界を完全に取り払い、シームレスな顧客体験を創出することを目的としています。顧客の購買行動そのものに焦点を当て、デジタルとリアルの融合によって、より自然で効率的な商品・サービスの利用方法を提供することが目的です。
さらに、オムニチャネルが企業視点でのチャネル統合を目指すのに対し、OMOは顧客視点での体験設計を重視します。OMOでは、顧客の日常生活におけるデジタルとリアルの自然な融合を反映し、より直感的で便利なサービスを提供することが求められます。
OMOとO2Oの違い
O2O(Online to Offline)は、オンラインの集客力を活用して実店舗への来店を促進することが主な目的です。例えば、SNSで店舗限定クーポンを配布したり、オンライン広告で実店舗のセール情報を発信したりする施策が挙げられます。
O2Oでは、オンラインとオフラインが明確に区別され、オンラインは実店舗への誘導手段として機能します。
一方、OMOは、オンラインとオフラインの境界を取り払い、顧客がどのチャネルを利用しても同質のサービスを受けられるよう、すべてのタッチポイントを統合します。
O2Oがオンラインからオフラインへの一方向的な流れを重視するのに対し、OMOは双方向の相互作用を重視します。OMOでは、顧客の行動データをオンライン・オフライン問わず収集し、パーソナライズされたサービスの提供に活用します。
OMOが注目されている背景
OMOが注目されている背景には、デジタル技術の急速な進化や消費者行動の変化など、いくつもの要因が大きく関わっています。
とくに大きな影響として挙げられるのは、主に以下の4つです。
- 顧客データの管理技術の進化
- スマートフォンとキャッシュレス決済の普及
- 消費者の購買行動の変化
- 情緒的価値の重視と顧客体験の向上
このように、技術の進化、消費者行動の変化、そして企業のニーズが複合的に作用し、OMOは現代のビジネス環境において不可欠な概念として注目を集めています。
顧客データの管理技術の進化
かつては、オンラインとオフラインの顧客データは別々のシステムで管理されており、統合的な分析が困難でした。しかし、テクノロジーの発展により、これらのデータを一元管理し、より高い精度で顧客分析をすることが可能になっています。
例えば、ECサイトでの閲覧履歴や購買行動と、実店舗での購入履歴やポイントカードの利用状況を統合することで、顧客の全体的な購買パターンや嗜好を把握できるようになりました。これにより、オンラインとオフラインの垣根を越えた、きめ細かなパーソナライゼーション(個人への最適化)が実現しています。
また、リアルタイムデータ処理技術の発展も、OMO戦略の実現に大きく貢献しています。顧客の現在の行動や状況に即座に対応することで、タイムリーで関連性の高いオファーや情報を提供できるようになっています。
スマートフォンとキャッシュレス決済の普及
スマートフォンの性能向上により、いつでもどこでもインターネットに接続できる環境が整っています。また、高速な通信網と高性能なデバイスにより、消費者は外出先でも簡単に商品情報を検索したり、オンラインショッピングを楽しんだりできるようになりました。
例えば、実店舗で気に入った商品をその場でスマートフォンを使って比較検討し、最安値で購入するといった行動が一般的になっています。
同時に、キャッシュレス決済の普及も著しく進んでいます。クレジットカードやデビットカードだけでなく、スマートフォンを使った電子マネーやQRコード決済など、多様な支払い方法が登場しています。
これらの変化は、特にデジタルネイティブ世代において顕著です。幼少期からデジタル機器に慣れ親しんだ彼らにとって、オンラインでの購買は当たり前の行動です。そして、実店舗とECサイトを区別せず、自分にとって最も便利な方法で商品やサービスを利用する傾向が強くなっています。
こうした背景から、企業はOMO戦略の導入を急いでいます。例えば、飲食店では事前にスマートフォンでメニューを注文し、キャッシュレス決済で支払いを済ませた後、店舗で待ち時間なく料理を受け取れるサービスが増えています。
消費者の購買行動の変化
消費者の購買行動は、デジタル技術の進化とともに大きく変化しています。かつては実店舗での購入が主流でしたが、現在ではオンラインショッピングが日常的になり、消費者はより便利で柔軟な購買体験を求めるようになりました。
この変化の中心にあるのが、スマートフォンの普及です。消費者は、いつでもどこでも商品情報にアクセスし、比較検討できるようになりました。
例えば、実店舗で商品を見ながら、スマートフォンで価格比較や口コミチェックをしてオンラインで購入する「ショールーミング」が一般的になっています。逆に、オンラインで情報収集した後に実店舗で購入する「ウェブルーミング」も増加しています。
さらに、SNSの影響力も無視できません。インフルエンサーのレビューや友人の投稿が、購買決定に大きな影響を与えるようになりました。消費者は、単に商品を購入するだけでなく、その体験を共有することで自己表現の一部としています。
このような変化に対応するため、企業はオンラインとオフラインを融合させたシームレスな購買体験の提供が求められています。オンラインで在庫確認や予約をし、実店舗で商品を試した後、すぐにスマートフォンで決済するといった一連の流れが、消費者にとって当たり前になりつつあるからです。
情緒的価値の重視と顧客体験の向上
近年、消費者の購買行動において、商品やサービスの機能的価値だけでなく、情緒的価値が重視されるようになってきています。この変化に対応するため、OMO戦略は、顧客体験の向上と情緒的価値の提供に重点を置いています。
オンラインとオフラインの境界を取り払うOMOの特性を活かすことで、企業は顧客に対してより豊かで一貫性のある体験を提供できます。例えば、実店舗での特別な接客体験と、オンライン上でのパーソナライズされたレコメンデーションを組み合わせることで、顧客一人ひとりのニーズに応じた対応が可能です。
この情緒的価値の提供は、単なる満足度の向上だけでなく、顧客ロイヤリティの強化にもつながります。顧客が商品やサービスに対して感情的な愛着を持つことで、リピート購入や良い口コミが増えていくでしょう。
OMOマーケティングの3つのメリット
OMOマーケティングは、オンラインとオフラインの境界を取り払い、シームレスな顧客体験を提供することで、ビジネスに多くのメリットをもたらします。
以下は、OMOマーケティングの主なメリットです。
- 顧客体験と顧客満足度を高められる
- 販売機会の損失を防ぐことができる
- ブランドイメージを統一できる
これらのメリットを最大限に活かすためには、顧客のニーズや行動の変化に柔軟に対応しながら、OMOの取り組みを進化させていくことが重要です。
顧客体験と顧客満足度を高められる
OMO戦略の最大の魅力は、顧客体験と顧客満足度を飛躍的に向上させられる可能性があることです。この戦略では、オンラインとオフラインの境界を取り払い、シームレスな顧客体験を創出することで、顧客満足度の向上を図ります。
まず、OMOの核心は、顧客がどのチャネルを利用しても一貫した体験を得られるよう設計されている点です。
例えば、スマートフォンで商品を閲覧し、実店舗で試着し、その場でアプリから購入するといった、顧客の自然な行動パターンに沿ったサービスを提供できます。これにより、顧客は自分のペースで快適に買い物を楽しむことができ、結果として満足度が高まります。
このように、OMOは顧客体験を総合的に向上させ、結果として顧客満足度を高められるため、ロイヤルティの強化にもつながります。長期的な視点では、顧客生涯価値(LTV)の最大化も期待できるでしょう。
販売機会の損失を防ぐことができる
OMO戦略によってシームレスな購買体験を提供することにより、顧客の購買意欲が高まった瞬間を逃さず、販売につなげることができます。
従来のように、オンラインとオフラインが分断されていた場合に起こりがちだった「店舗に在庫がない」「オンラインで見たけど実物を確認できない」といった理由での機会損失を、大幅に減らすことができるでしょう。
さらに、OMOではデータのリアルタイム管理と活用が重要なポイントです。顧客の購買履歴や行動データをオンライン・オフラインの垣根なく収集し、分析することで、個々の顧客に最適なタイミングで最適な商品やサービスを提案することが可能になります。
このようなデータ活用により、従来は見逃されていた潜在的な販売機会を掘り起こすことができます。例えば、過去に購入した商品の関連アイテムを提案したり、季節や天候に応じた商品をタイムリーに紹介したりすることで、顧客の潜在的なニーズを喚起し、追加の販売機会を創出することができるでしょう。
ブランドイメージを統一できる
OMOを通じてオンラインとオフラインで統一されたメッセージを発信することで、顧客の信頼を獲得しやすくなります。実店舗での接客内容とECサイトでの商品説明、SNSでの投稿内容を一貫させることで、ブランドの価値観や特徴を明確に伝えることができるでしょう。
顧客はどのチャネルを利用しても同じブランド体験を得られることで、ブランドへの親和性が高まります。
さらに、OMOはブランド認知の拡大にも貢献します。オンラインとオフラインの複数のチャネルを活用することで、顧客接点を増やし、より多くの人々にブランドを認知してもらう機会を創出できます。
例えば、実店舗でのイベント情報をSNSで拡散したり、オンラインで購入した商品の受け取りを実店舗で行えるようにしたりすることで、オンラインとオフラインの相乗効果を生み出せるでしょう。
OMOで成功するために実施すべき3つのポイント
OMOで成功するためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
以下は、OMOを効果的に実施するための主なポイントです。
- データを一元管理して活用する
- シームレスな顧客体験を設計する
- テクノロジーを活用し人材を育成する
これらのポイントを押さえつつ、自社の特性や顧客ニーズに合わせてOMO戦略をカスタマイズしていくことが、成功への近道となるでしょう。
データを一元管理して活用する
オンラインとオフラインのデータを統合することで、顧客の全体像を把握し、より精度の高いマーケティング施策を展開することができます。
データの一元管理により、顧客の購買履歴や行動データを包括的に分析することが可能です。例えば、実店舗での購入履歴とECサイトでの閲覧履歴を組み合わせることで、顧客の嗜好や購買パターンをより正確に把握できます。
これにより、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされた商品提案やサービスの提供が実現し、顧客満足度の向上につながるでしょう。
また、複数のシステムやチャネルで管理されていたデータを統合することで、情報の重複や矛盾を防ぎ、より正確な情報に基づいた意思決定が可能になります。これは、在庫管理や販売予測などの業務にも大きな影響を与え、経営資源の最適化にもつながります。
そのため、ECシステムもリアルタイムでデータ連携ができるなど、OMOにも対応できるようカスタマイズ可能なものが望ましいです。例えば「通販マーケッターEight!」のように、ECカートと基幹システムをリアルタイム連携できたり、必要な機能をカスタマイズして追加できるシステムだとOMOが実現しやすくなるでしょう。
シームレスな顧客体験を設計する
顧客がどのチャネルを利用しても「同じ体験ができる」ように設計することが重要です。例えば、ECサイトで見た商品情報や価格が実店舗でも同じであることや、オンラインで獲得したポイントを実店舗でも使用できることなどが挙げられます。
これにより、顧客は自分にとって最も便利な方法で商品やサービスを利用できるようになります。
また、顧客の不便を解消するための施策を考え、実行することで顧客体験を向上させることができます。例えば、スマートフォンアプリを活用して、店舗内での商品の位置情報を提供したり、レジ待ち時間を短縮するためのモバイルオーダーシステムを導入したりすることが考えられます。
テクノロジーを活用し人材を育成する
OMO戦略を成功させるためには、最新のテクノロジーを活用するとともに、それらを効果的に運用できる人材の育成が不可欠です。この二つの要素を組み合わせることで、顧客に真の価値を提供し、競争優位性を確立することができます。
まず、AIやIoTなどの先端技術を活用して顧客の行動を分析し、パーソナライズされた情報を提供することが重要です。
例えば、店舗内のセンサーやビーコンを使用して顧客の動線を把握し、その情報をAIで分析することで、個々の顧客に最適な商品提案やサービスを提供できます。また、オンラインでの閲覧履歴と実店舗での購買データを統合し、機械学習アルゴリズムを用いて顧客の嗜好を予測することも可能です。
しかし、これらの技術を導入するだけでは十分ではありません。従業員がこれらのデジタルツールを効果的に活用できるよう、継続的なトレーニングを行うことが重要です。
OMO戦略を取り入れている企業の事例
OMO戦略を成功裏に導入している企業の事例は、多岐にわたります。これらの事例から、OMOの実践的な適用方法と、その効果を学ぶことができます。
ここでは、以下の3社の事例を紹介します。
- 株式会社ニトリホールディングス
- Zoff(ゾフ)
- Alibaba:フーマーフレッシュ
これらの事例から、OMO戦略の成功には、単にオンラインとオフラインのチャネルを統合するだけでなく、顧客のニーズを深く理解し、シームレスな体験を提供することが重要だとわかるでしょう。
株式会社ニトリホールディングス
株式会社ニトリホールディングスは、家具・インテリア業界のリーディングカンパニーとして知られていますが、近年ではOMO戦略を積極的に推進しています。同社は、オンラインとオフラインの融合を通じて、顧客体験の向上と売上の拡大を目指しています。
ニトリの取り組みの中で特に注目されるのが、ニトリアプリに新たに導入された「コーディネートページ」機能です。この機能により、顧客は自分のライフスタイルに合わせた家具やインテリアのコーディネートを簡単に確認できるようになりました。
さらに、ニトリは「みんなのイイね。」というコーナーを設け、高評価を得た商品を特集しています。この取り組みは店舗とオンラインの両方で展開されており、顧客の購買意欲を刺激するとともに、買上品目数と客単価の向上にも貢献しています。
参考:株式会社ニトリホールディングス「2022年2月期 第2四半期決算説明会」
Zoff(ゾフ)
Zoff(ゾフ)は、日本のアイウェアブランドとして知られていますが、近年ではOMO戦略を積極的に展開し、オンラインとオフラインの融合を通じて顧客体験の向上に取り組んでいます。
Zoffの特筆すべき取り組みの一つが、EC上でのデジタル接客の実現です。従来、メガネの購入は実店舗での試着や専門スタッフのアドバイスが重要視されてきましたが、Zoffはオンラインでもこの体験を提供しようと努めています。
例えば、バーチャル試着システムの導入や、AIを活用した顔型診断サービスなど、テクノロジーを駆使して顧客のニーズに応えています。
さらに、Zoffは「Zoff STAFF COLLECTION」というユニークなコンテンツを展開しています。これは、店舗スタッフが自身のスタイリングや商品の魅力を発信するWEBコンテンツで、2022年12月19日から本格的に開始されました。
この取り組みの特徴は、単なる商品紹介にとどまらず、1店舗1人以上のインフルエンサーを輩出することを目標としている点です。
参考:株式会社インターメスティック「スタッフ投稿を活用した WEB コンテンツ『Zoff STAFF COLLECTION』を 2022 年 12 月 19 日(月)から開始」
Alibaba:フーマーフレッシュ
Alibaba(アリババ)グループが展開するフーマーフレッシュは、OMO戦略の代表的な成功事例として世界中から注目を集めています。この革新的なスーパーマーケットは、オンラインとオフラインの境界を完全に取り払い、新しい買い物体験を提供しています。
フーマーフレッシュの店舗内では「すべての商品にQRコードが設置」されており、顧客はスマートフォンでこのQRコードを読み取ることで、その場で商品の詳細情報、ユーザーレビュー、さらには関連するレシピ情報までを簡単に確認することが可能です。
決済システムもまた、完全にデジタル化されています。顧客は専用アプリを通じて商品をカートに入れ、キャッシュレスで購入することができます。この仕組みにより、レジでの待ち時間が大幅に削減され、スムーズな買い物体験が実現しています。
さらに、フーマーフレッシュは店舗の近隣エリア(通常は半径3km以内)に対して、30分以内の無料配送サービスを提供しています。これにより、実店舗に足を運ぶ時間がない顧客でも、新鮮な食材を手軽に入手することができます。
参考:OMO戦略とは?ポイントや顧客体験の設計方法、施策例も解説
これからOMOはどうなる?将来性について
OMOは今後、さらなる進化が期待されています。テクノロジーの急速な発展と消費者行動の変化により、OMOは小売業界だけでなく、様々な産業において重要な戦略となっていくでしょう。
AIやIoTの技術進化により、より高度なデータ分析が可能になり、顧客の行動や嗜好をより精緻に把握し、パーソナライズされた体験を提供することができるようになります。例えば、店舗内のセンサーがリアルタイムで顧客の動きを捉え、AIがその情報を即座に分析して最適な商品提案を行うといったことが可能になるでしょう。
5G通信の普及も、OMOの進化に大きく関係します。高速・大容量・低遅延の通信環境により、リアルタイムでのデータ収集と活用が可能となるため、よりシームレスな顧客体験が提供できるようになります。
このように、OMOの将来は技術の進化と共に大きく広がっています。企業には、これらの変化に柔軟に対応し、常に顧客中心の視点を持ちながら、革新的なOMO戦略を展開していくことが求められます。